「自分がいっぱいいっぱいになってしまって、目の前のことしか見えなくなると、すごく身近で親しい人たちの言葉さえ届かない時があるんです。たとえば『頑張ってるよ』『大丈夫だよ』と言われても、『いや、まだ頑張れます』『もっと頑張れるんです、私は』みたいに、どんどん内側にこもってしまうことがあって」
慰めではなく、ただひとつの事実が届く時
そんな時、普段は頻繁に連絡を取るわけではない友人が、ふっと必要な言葉だけを置いていってくれることがあるのだという。
「たとえばシンシンがちづみに言う『小さいからいいんだ』という言葉みたいに、何かを慰めたり肯定したりするのではなく、ただひとつの事実を、まっすぐ置いてくれる言葉です」
「そうすると、あ、自分に必要だったのはこういうことだったのかもしれない、って気づける瞬間があるんです。年に1回あるかないか、くらいのことかもしれないけれど、いっぱいいっぱいになった時に、少し遠い友人から新しい言葉をもらって助けられることはあります」
「そういう言葉に触れた時に、ああ、自分が求めていたものは周りにちゃんとあったんだ、ってもう一度気づける。私はそういうことって、すごくあるなと思っています」
そうした言葉の効き方を、岸井はたぶんよく知っている。
だからこそ、彼女が映画に託しているのも、人生を大きく変えるような答えではない。見過ごしていた感情や、置き去りにしていた自分に、そっと触れ直すための小さなきっかけなのだ。
「小さいからいいんだ」
その一言は、喪失の中にいるちづみを大きく励ます言葉ではなく、ただそこにいることを認める言葉として、静かに差し出されている。

