東洋経済オンラインとは
ライフ #懐かしドラマを今の目で観たら、社会の変化が見えてきた

「網探しには3話使うのに妊娠・出産はサラッと描く」…大ヒット朝ドラ『ばけばけ』はなぜ"取るに足りないこと"を描いたか

6分で読める
「ばけばけ」ドラマ館のパネル
『ばけばけ』は、なぜ視聴者から反響を集めたのか(写真:筆者撮影)
  • ドラジ ドラマウォッチャー・批評家
2/3 PAGES

一方で、人生の大きな出来事はあっさり描いていた点も印象的だ。多くのドラマでは出産までの過程や出産時を大々的に取り上げることも多いなか、『ばけばけ』では第109回の終盤でトキがヘブンに妊娠したことを告げ、翌第110回の冒頭で出産を終えるなどさらっと仕上げていた。3話分ほど割いていた網探しの一件と対照的すぎて面白い。

本作のキャッチコピーが「この世はうらめしい。けど、すばらしい。」であることや、朝ドラの制作発表時に脚本家のふじきみつ彦氏が「取り立てて人に話すほどでもない他愛もない時間。そんな光でも影でもない部分に光を当てる朝ドラを書いてみたい」と語ったことに、これほど頷けることはないだろう。

他愛のないすばらしの毎日~散歩することと会話すること~

(画像:朝ドラ「ばけばけ」公式Xより)

前編で取り上げた『岸辺のアルバム』の田島夫婦が破綻の象徴であるとするなら、『ばけばけ』のトキ・ヘブン夫婦は成熟の象徴だろう。

心理学者の河合隼雄が「(夫婦関係は)共通部分と対立部分との適切な組み合わせによって保たれているのである」と論じていたことは前編で取り上げたが、『ばけばけ』はまさにこの「適切な組み合わせ」が随所に見られる作品であった。

2人は「散歩」「怪談」といった共通の趣味を楽しんでいる。ことあるごとに「散歩しませんか?」と誘って近所を2人で散歩したり、怪談に幼少期から馴染みのあったトキが、日本文化に興味津々のヘブンに語ったりする様子は、2人が同じ時間を楽しみながら共有していることをあらわす。

さらに面白いのが、2人にとって対立の種になりそうな「語学の壁」さえも面白おかしいものとして、変換していていることだ。ヘブンも日本語が完璧なわけではないし、トキも英語を学ぶ意欲はあるがまったく覚えることができない(「ありがとう」を「センキョー」というレベルだ)。

しかし、欠点にもみえる語学力を共通の面白おかしいこととして編み直していく。例えば、トキはヘブンの着ている「フロックコート」を「フロッグコート(=カエルコート)」と誤解し、このかわいらしい様子はヘブンをむしろ喜ばせた。

言語の壁は決して相手に迷惑をかけるものではない。日本語を母語としないヘブンに対して、トキは新聞を読んで世間の面白そうなできごとを伝え、作家仕事のヒントを与えるリテラリーアシスタントとして活躍するなど、お互いの言語能力を補完し合う関係も垣間見られた。

3/3 PAGES

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

ライフ

人気記事 HOT

※過去1ヶ月以内に配信した記事の閲覧数