『ラヴ・ミー・ドゥ』では「僕たちを愛して」、『プリーズ・プリーズ・ミー』では「おいでよ、僕たちを喜ばせてよ」と語りかける。『オール・マイ・ラヴィング』では「目を閉じて キスをするから」と甘く囁く。
これまでは共感を呼ぶ音楽が主流だったが、それをビートルズは双方向の音楽として差し出した。
だからこそ若者たちは、「自分たちを子ども扱いせず、一人の人間として見て、肯定してくれる存在」として夢中になったのだ。
大人社会に「NO」を突きつける
岡本さんがビートルズの扉を開いたきっかけになった『ア・ハード・デイズ・ナイト』は映画にもなっている。本作はビートルズ初主演のドキュメンタリー風映画で、彼らのリアルで目まぐるしい日常を、ユーモアたっぷりに活写した作品だ。
つまり、これまで耳だけで聴いていたビートルズを、動く姿として堪能できる。より彼らを身近に感じ取れる仕掛けが満載で、多くのファンを釘付けにした。岡本さんに至っては、294回も観たそうだ。
スーツ姿のジョン、ジョージ、リンゴがカメラに向かって走ってくる。どうやらファンに追いかけられているようだ。ジョージとリンゴが転ぶ。振り返ったジョンがその様子を見てハハッと笑っている。別の場所でポールは、しかめっ面の中年男性の隣に座って新聞を広げて顔を隠している――。
フレッシュさとチャーミングさ、そして疾走感。冒頭2分ほどで、4人の魅力に誰もが惹きつけられてしまう。
この映画のなかでは、ビートルズの飾らない素顔が見えてくる。
4人でラジオの音楽を楽しんでいるところに、紳士が入ってきて突然電源を切られる。それに対して、4人は立ち上がりガラス越しに縦に並び、変顔してサヨナラする。
プロデューサーらしき中年男性のVネックセーターを指差して「これは奥さんが選んだの?」とツッコむ。
傷病兵の包帯をぐるぐる巻いている腕に、ケチャップをわざとかけて指ですくい、ペロっとする。

