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中国古典の「徳」には何が欠けているのか~明治一オモロイ経営者・朝吹英二③『明治実業家の知識・見識・胆識』特別編

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東京駅からは、日本橋エリアに建ち並ぶ三井の象徴的なビル群を一望できる(撮影:尾形文繁)
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益田、中上川、朝吹の3人は、もちろん「智」「情」「意」すべてを高いレベルで持ち合わせていたが、重点を置いている要素が明らかに違っていた。

天性の愛嬌を持ち合わせた朝吹

まず益田孝は、「智」の人だ。頭の良さが傑出しているが、中国古典の教えに、

「頭がいい人は、先が見えすぎて、保身に走りやすい」

という指摘があるように、彼は「安全・確実」に傾くところがあった。

これに対して、中上川彦次郎は「意」の人だった。

ロジカルに進むべき道を見定めて、意志力で突破していくという意味では、改革にはうってつけのタイプだが、周りとの軋轢を作りすぎてしまい、途中でつまずいてしまいがち。

彼は三井に移る前、山陽鉄道(今のJR西日本)の社長をしていたが、このときも実はまったく同じだった。

鉄道を敷設するさい、時代に先んじた数々の施策――複線化や、スピードの出せる通常より緩い傾斜やカーブなど――を現場に実行させていったが、とにかくカネがかかった。

このため、不景気がきて資金繰りが難しくなると、株主などの不満を抑えられなくなる。

そして、責任追及が激しくなったタイミングで、井上馨が三井への移籍を打診してきたのだ。

しかし三井でも彼は、同じパターンを繰り返してしまう。

朝吹英二は、他2人と比べると「情」の人だ。喧嘩になりそうな2人をうまくなだめ、組織をうまくまとめている。

三井の強さは、組織として極めて高いレベルで智、情、意の3つが、うまく揃っていたことにあった。

さらに、朝吹を見ていると、「智」「情」「意」という3つに――とくに組織人の存在基盤という意味で――筆者は、もう1つ付け加えたくなる。

それが「愛嬌」なのだ。

具体的に言えば、場を和ませモノを言いやすくする力、仲裁する力、軋轢を作ることなく反対意見を伝えられる力は、よい組織を維持するのには必須の要素なのだ。

実は中国古典には、「愛嬌」や「ユーモア」に類する徳が出てこない。ちなみにユーモアは、西欧では重要な徳目の1つであり、この点で、東西の大きな違いがある。

そして、奇しくも朝吹は、中国古典を生き方の芯にしていない偉人でもあった。

彼が、しかつめらしい雰囲気にならず、組織の風通しをよくし、和を作る媒介者になれたのは、天性の愛嬌という資質を押さえつけるような教えに、染まらなかったからかもしれない。

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