スロットマシンのレバーを引いたり、スポーツに賭けたり、スクラッチくじを買ったり。衝動の背景には、ストレスがある。そして博士は、食べ物についてもまったく同じことが言えるのではないかと考えた。私たちがジャンクフードに手を伸ばすのも、結局はストレスが原因なのではないかと。
その疑問を確かめるため、彼は何百もの研究論文を読みあさった。ストレス全般に関する論文のほか、ストレスが私たちの食べ方や食べるものをどのように変えるのか、そしてそれが人類の250万年の歴史のなかでも類をみない体重増加の現象をどう説明するのかについて。結論は――間違いなく、イエスだった。
私たちは2種類のストレスにさらされている。急性ストレスと慢性ストレスだ。急性ストレスとは、ホラー映画で「びくっ」と身がすくむ警戒反応のようなものだ。心拍数が上がり、血圧が上昇し、アドレナリンが分泌される。血液は手足の筋肉、心臓、脳に送られ、「闘うか逃げるか」の態勢を整える。
一方、慢性ストレスはそれほど強烈ではないが、長く続く。その結果、コルチゾールという別のホルモンが、じわじわと絶え間なく分泌される。
人間はストレスを抱えやすい
人間やほかの霊長類は、慢性的なストレスに陥りやすいという特異な性質を持っている。なぜなら、私たちは頭の良い社会的な生き物であり、しかも「互いを不幸にしたり、ストレスを与え合ったりする」だけの時間がたっぷりあるからだ。
そう説明するのは、スタンフォード大学の神経内分泌学者であり、マッカーサー財団の「天才賞」受賞者でもあるロバート・サポルスキーだ。
現代社会には、サポルスキーの言葉を借りれば、「捕食者に襲われる」といった、生存をかけた突発的なストレスはもはや存在しない。その代わりに、私たちは慢性的なストレス要因を自らつくり、広めている。隣人との比較、職場の人間関係、請求書、噂話といった類いのものだ。


※ログイン後、コメント入力が可能です。