欧米の政策ミスが招いたシリアの悲劇 フランスは歴史の連鎖に報復される

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米ロの対立に挟まれたアサド大統領(提供:SANA/AP/アフロ)

ISのパリ連続テロ事件にはもう一つのねらいが見え隠れする。フランスのイスラム教徒は人口の8%とされる。かなりの数だ。ほとんどのイスラム教徒はフランス社会に同化して、平穏な暮らしをすることを望んでいる。しかし、テロ事件によって、フランス国民のイスラム教徒やシリア難民への視線は厳しくなるはずだ。フランス国民は、理性では「フランスのほとんどのイスラム教徒は、過激派とは無関係だし、シリアからの難民は内戦の被害者」と理解しているはずだが、多数の国民の感情的な反発まで抑えることはできないことが予想される。こうしてイスラム教徒に対する周囲の視線が厳しくなり、迫害が高まると、「疎外されたイスラム教徒2世、3世の若者」をISがリクルートすることが容易になるという計算もあろう。

話をシリアに戻す。トルコで開催されたG20(20カ国・地域)首脳会議でのオバマ大統領とプーチン大統領の協議によって、IS打倒で米国とロシアの合意が成立したようにみえる。が、当面のIS封じ込めでは、米国とロシアの妥協が成立したとしても、その後のシリアの姿についての合意は困難だろう。それはGCCも同じである。「同床異夢」の状態だ。

イランは核開発問題を、感嘆すべき交渉力と忍耐力でくぐり抜けて、経済制裁解除によって国際社会に復帰する寸前にいる。すでにイランを有力市場とみなす、EUや日本からは、熱い視線を送られている。 しかし、シリアやイラクの内戦に対し軍事的に過度に介入することになれば、国際社会のイランへの警戒感が復活するリスクを抱えている。11月26日に東京都内で、イランの大学教授と外交官を招いた講演会が開催されるが、その題目は。「中東の過激派対策におけるイランの役割~可能性と障壁について」。何とも的確に、IS対策ではイランが国際社会からの認証の範囲で「イランができること」について、示唆している。

ISは衰退しても世界中に散らばる

シリア内戦は反体制派のアサド政権打倒運動から始まったが、その後、主役は穏健派から過激派へと移行した。ともに程度の差はあるものの、欧米やトルコ、GCC諸国が支援した。アサド政権防衛に貢献したのは、イラン(ヒズボラを含む)とロシアだった。アサド政権が滅亡を避けられたのも、2013年9月、オバマ大統領による「シリアのアサド政権を空爆しない」という政治的決断が大きかった。この流れを視野に入れると、「シリア内戦は自生的なものでなく、国際社会(外部)がシリアの今後をどう考え、どのように介入するかで決まる」(高岡豊・中東調査会上席研究員)はずだ。

ISは、国際社会の忍耐の限度を超えたテロによって、今後衰退するはずだ。だが、IS的なイスラム過激派運動は、国際社会にすでにビルトインされており、参加する覚悟を持った若者は少数だが、世界中にいる。シリア・イラクにおけるIS国が解体しても、やがてどこかで規模の差はあれ、”弱った国”で登場するだろう。

それにしてもシリア内戦の犠牲は大きすぎる。国民の半分が家を失い、20%が難民となり、30万人以上が死亡した。その火の粉は、難民とテロの波になって、欧州に押し寄せている。フランスはシリアの元の宗主国だ。フランスの植民地支配下で育成されたのが、それまでシリア国内で迫害されていた少数派から支配階級になった、アサド大統領が属するアラウィー派(人口の12%)であることは歴史的事実で、シリア発テロに打ちのめされたのがフランスだ。何とも歴史は皮肉なものである。

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