我々人類は成長して、反射的反応に支配されるたぐいの生活からは卒業しているが、そのような反応はほとんどの人が気づいている以上に我々の行動を左右している。
たとえば、学生の実験協力者が通りすがりの人に小銭をせびるという設定の、互いによく似た2つの実験について考えてみよう。
一方の実験はサンフランシスコのショッピング街で、もう一方の実験はサンタクルーズの埠頭の屋外でおこなわれた。いずれの実験でも、物乞いに扮した学生はTシャツにジーンズといったいかにも学生らしい服装をして、相手から1メートル以上の距離を取りながら小銭をせびった。
通行人のうち半数(対照群)には、25セントまたは50セントをくれるよう頼んだ。どちらの額でも成功率はだいたい同じで、17%の場合にお金を恵んでもらえたが、「仕事しろ」とか「ここでは物乞いは禁止だ。牢屋はきっと楽しいぞ」などと侮辱されることもあった。しかし大多数の通行人は無視して歩き去った。
中途半端な数字が意識的思考を促す
これらの地区には物乞いが大勢いたため、研究者たちは、頭で考えてからお金を恵んでやる通行人なんてほとんどいないのではないかとにらんだ。おおかたの人は、「物乞いからお金をせびられたら無視せよ」といった頭の中のルールに基づいて、自動的に反応したというのだ。
そこで研究者たちは次のような仮説を立てた。この台本を混乱させて通行人がじっくり考えたくなるよう仕向ければ、物乞いの成功率が上がるかもしれない。そこで残り半数の通行人には、聞いたことのないような頼みごとをした。
「ねえねえ、37セントくれない?」。対照群における25セントと50セントのだいたい中間の額だ。
狙いは、通行人が半端な数を聞いて注意を向け、頭の中のルールを当てはめるのをやめて要求の内容を意識的に考えるよう促すことだった。
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