「仕事の質とスピードを両立」するシンプルな法則 「仕事の質」は相手のニーズから逆算して考える

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米国にスペースX社という民間の衛星打ち上げ企業があります。同社は、衛星の打ち上げで2段目ロケットを切り離したあとに、1段目ロケットを逆噴射させて着陸回収・再利用する技術を世界で初めて確立させました。高額のエンジンの回収・再利用により、打ち上げコストを当時の約100億円から数十億円単位で大きく引き下げ、あっという間に世界シェア・ナンバーワンの打ち上げ企業になったのです。

打ち上げコストを低下させることができた理由がもう1つあります。エンジンが高額になっている最大の理由は、エンジントラブルが絶対に起きないよう、品質を極限まで高めた開発、製造がなされてきたからです。しかし、同社CEOのイーロン・マスク氏は「クライアントの本質的なニーズは確実に衛星を軌道に乗せること。しかもできるだけ安価で」という原点に立ち返ります。

であれば、そこまで品質を高めなくても、エンジンをたくさん装備して、たとえ1基ぐらいトラブってもほかのエンジンでカバーできればいいのではと考えます。それで開発されたのが、9基のエンジンを装備して同社の主力ロケットとなった「ファルコン9(ナイン)」です。

究極の品質追求というコスト高要因を取り除き、量産効果も相まって、エンジン製造コストを大きく低下させました。2012年には、打ち上げ直後にエンジン1基にトラブルが発生したものの、衛星を問題なく軌道に乗せ、顧客ニーズを完全に満足させています。

過剰品質を美談とする時代を終わらせる

歴史ある企業によく見られる品質至上主義は、顧客の本質的なニーズとは必ずしも合致しない、過剰品質の文化を生み出しています。この文化が生産性や競争力の低下要因となっている現実に私たちはもっと向き合い、それを美談とする時代を終わらせなければなりません。

ちなみに、スペースX社のプレゼンは、回収に失敗した1段目ロケットが大爆発を起こしている動画から始まるそうです。「これだけの失敗をして、そこから多くを学んできた私たちの技術を信頼してください」ということです。失敗からの修正過程が、技術的、ビジネス的なノウハウを蓄積させ、それがチームの財産となっているのです。

管理職にとっての重要な役割の1つはチームの生産性を高めることです。そのためには、従来の効率化といった発想ではなく、仕事やアウトプットの「質」により一層目を向ける必要があります。

櫻田 毅 人材活性ビジネスコーチ

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さくらだ たけし / Takeshi Sakurada

アークス&コーチング代表。九州大学大学院工学研究科修了後、三井造船で深海調査船の開発に従事。日興證券(当時)での投資開発課長、投資技術研究室長などを経て、米系資産運用会社ラッセル・インベストメントで資産運用コンサルティング部長。その後、執行役COO(最高執行責任者)として米国人CEO(最高経営責任者)と共に経営に携わる。2010年に独立後、研修や講演などを通じて年間約1500人のビジネスパーソンの成長支援に関わる。近著に『管理職1年目の教科書』(東洋経済新報社)がある。

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