筆者が参画する欧州エネルギー取引所にも上場する排出権(EU ETS)価格の上昇が止まらない。3月にはCO2(二酸化炭素)1トン当たり史上最高値の42.85ユーロまで上伸し、1年前にコロナショックで17ユーロを割り込んだ時点からみると2.5倍もの上昇である。
世界の排出権取引市場の時価総額は昨年時点で2290億ユーロ(約30兆円)で、2017年から5倍に拡大した。うち9割をEU(欧州連合)が占めており、今後中国などが排出権取引を始めることで時価総額はさらに拡大し、EUのシェアは下がると見込まれる。昨年時点で約10億ユーロ(約1300億円)の排出権がスポットで売買され、先物やオプション取引も増加している。
そもそも排出できる枠を売買するという発想は米国の発電所が排出する二酸化硫黄を抑える目的で始まった。それが02年に英国、05年にはEUでCO2の排出枠を売買する形へと進化した。今はEU域内で一定程度の規模を超えてCO2を排出する工場・事業所・施設などを対象に導入され、EU全体の排出量の約45%をカバーする。
米国ではカリフォルニア州が12年から、ニュージーランドでは08年から、中国でも今年2月から排出権取引が始まっている。この取引の特徴は目標とする削減量を基に排出枠が設定されるので効果に確実性があり、かつ枠の自由な売買を許すことで削減費用を最小限化できることだ。ただ排出枠の設定を厳しくするか緩くするかで取引価格が大きく変動するリスクはある。
昨年のコロナ禍による経済活動の減速で20年の世界のCO2排出量は19年比で26億トン(約7%相当)減少し340億トンとなった。これは戦後最大の減少幅である。しかしパリ協定で定める気温上昇の抑制目標の達成には、昨年規模の削減幅を今後10年間、隔年で続ける必要がある。コロナ以前の排出量の推移を見ると、パリ協定が発効した16年から19年の4年間でそれまでの5年間に比べ、64カ国で年平均1.6億トン削減され、増加ペースは鈍化している。だがこれはパリ協定の目標達成に必要な削減量の約10分の1にすぎない。50年のカーボンニュートラル実現への道のりは険しい。
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