「労働者を中心に据えた通商政策」。2月末に開かれた米議会の公聴会で、米通商代表部(USTR)代表に指名されたキャサリン・タイ氏は「労働者」という言葉を多用した。さらに、最初の100日間の優先課題として、「気候(変動)に関する危機への対処」も挙げた。同氏の発言が示すようにバイデン政権は、労働者の利益増進と気候変動対策を通商政策の中心課題に掲げる考えだ。
通商政策で労働者や環境の視点を重視するのは、民主党のかねての傾向である。トランプ前政権が北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉で結んだ米墨加協定(USMCA)では、労働・環境基準の順守が強化された。議会での承認を得るため、共和党のトランプ政権が民主党議員の要請に応えた結果である。
民主党にとって通商政策は、自由貿易の確立や市場の拡大といった“目的”というよりも、ほかの重要課題を実現するための“手段”としての性格が強い。世論調査でも、民主党支持者は取り立てて自由貿易を嫌っているわけではないが、通商政策の優先度は明らかに低い。
米ピュー・リサーチセンターが1月に実施した世論調査によると、「国際貿易」を最優先課題とする民主党支持者は3割にも満たなかった。約20ある選択肢の中では「軍備増強」に次ぐ関心の低さであり、「雇用」(約7割)や「気候変動」(約6割)に大きく劣後する。
ただし、優先課題である労働者の利益増進と気候変動対策とは利害の対立がある。労働組合の広がりなどで労働者の力が強まれば、再生可能エネルギーといった新興産業には重荷となる。一方、環境対策として脱石炭・石油が進めば、同産業の労働者には打撃となる。さらには、労働者の保護により賃金水準を引き上げると同時に、脱炭素に向けた環境規制を強化すれば、国内の生産コストは高まり、米国の国際競争力が低下しかねない。
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