企業は株主価値や利益ではなく、社会的責任を優先すべきだとする論調が近年強まっている。この傾向がコロナ禍の前に始まっていたのは、社会にとってわずかな幸運といえるだろう。
国連開発計画は2015年にSDGs(持続可能な開発目標)として、17の領域を提言した。貧困、健康、環境など世界規模の危機的な問題への取り組みである。
19年には米大企業のCEO(最高経営責任者)200人近くで構成されるビジネスラウンドテーブルが、利益最優先の経営目標を取り下げた。企業は株主利益ではなく「すべての利害関係者(顧客、従業員、取引先、地域社会、株主)」に貢献すると宣言したのだ。
筆者はこの発表に強い関心を持った。日本の経営学者の多くはつねに「そうあるべきだ」と主張してきたが、以前なら「会社は株主が所有するので、その利益を最優先するのが当たり前だ」と米国の経営学会では非難されていたからだ。
筆者が20代のときに行った米MIT(マサチューセッツ工科大学)のMBA(経営学修士)コースでは、「経営者が利益最大化以外の目標を掲げるのは、株主から信任を受けた者の義務に反する」とたたき込まれた。
MITで戦略論のスター学者だったレベッカ・ヘンダーソン教授とはこの点で言い争ったこともあった。その同教授が最近出版した『資本主義の再構築』では、環境と人に優しい経営を重視すべきだとし、主張を転換した。「企業業績だけを目標とするよりも、社会問題との両立を実現する経営のほうが格段に複雑であり、そのために企業は社会的な視点から経営目的と存在意義を明確に持たなくてはならない」と言う。今、ヘンダーソン教授は米ハーバード・ビジネススクールの看板教授として世界の経営学を牽引する。MBA教育の変化を象徴している。
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