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やはり違和感残る「生前退位」の用法 責任逃れや事なかれの先例追随であってはならない

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  • 岡本 隆司 早稲田大学教育・総合科学学術院教授

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小欄第92回でとりあげた「生前退位」という成句の由来について、拙稿を読んでくれた畏友からいろいろ示教をいただいた。ありがたいことである。まだ正確なところはわからないけれども、参考のためいくつか紹介したい。

法律の世界では、「生前贈与」という術語がある。「生前退位」を最初に使った人は、その言い回しから連想したのかもしれない、との由。

「生前贈与」はたしかに「退位」と同じく、法的な相続に関わることばだから、なるほど一理ある。可能性がまったくないとはいえまい。

しかしそんな連想が正当か、適切かどうかは、別の問題である。贈与の場合は、「生前」もあれば「没後」もありうるし、法律用語だから、黒白をつけるため曖昧なところがあってはならない。くどい言い回しも一種の必要悪なのだろう。

それでも天皇陛下の「生前退位」は、同列に扱うわけにはいかない。いかに同じ相続、法的用語であるとはいえ、文脈ははるかに異なっている。

ローマ教皇でも生前退位か

いまひとつ。新聞がはじめて「生前退位」を用いたのは、かつてローマ教皇の継承が話題になった時との由。こちらのほうはすっかり忘れていた。

2002年ごろにヨハネ・パウロ2世が「生前退位」を否定した、また2013年にベネディクト16世が「生前退位」した、という記事がある。いずれの場合も、外務省やローマ教皇庁日本大使館の報道資料に、そんな文言は見られない。外務省の記者クラブあたりが発信源だったとするなら、やはりマスコミの造語なのであろう。

ローマ教皇には、終身の在位という制度は存在しない。けれども実際には、在世中その位を退くのはベネディクト16世が六百年ぶりの異例だというので、それを「生前退位」と成句にして強く印象づけたい心理はよくわかる。

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