労働関係の政府統計を日々眺めている私のような研究者にとって、今回の厚生労働省の不正統計問題は青天の霹靂(へきれき)であった。これまで数多くの経済現象が政府統計によって解明され、そこで得られた知見は政策立案にも役立てられてきた。その基盤となるのは政府統計、とくに今回問題となった「毎月勤労統計」をはじめとする基幹統計の正確さに対する信頼だ。今回の問題が人々の政府統計に対する信認に大きな影響を与えることを、私は心配している。
それは、経済統計を取り巻く環境が以前とは大きく変化しているからだ。現在、インターネットにより莫大な情報が生成されている。その典型例は、ネットで募集・登録された人に対して実施される意識調査などのアンケートだ。中には、何らかの報酬を回答者に与えることで、多くの回答を得ようとするものもある。反面、人々のプライバシー意識が高まっており、アンケート調査そのものに対して拒否反応を示す人々も増えている。
これらの行き着く先は、大量の「ゴミ調査」の氾濫だ。調査項目に関心を持ち、回答する時間的余裕があり、かつ回答することに抵抗を感じない人だけが回答者となっている調査が非常に多い。こうした調査に基づく統計は深刻なバイアスを伴うので、実態の正確な把握は困難であり、ましてや政策の基盤とすることはできない。
それに対して、政府の行う基幹統計は正確さが確保されるための条件を備える。まず、調査対象を無作為標本抽出(場合によっては全数調査)することにより、家計・企業の属性や、調査事項への関心の有無といった要素とは無関係に満遍なく調査が行われる。しかも、調査対象に選ばれた者には回答が義務づけられ、回答拒否や虚偽回答に対しては統計法によって罰金刑が定められている。
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