4年前の震災の日から夜昼がまったく逆転してしまった。夜は起きていて(眠れない)、昼は眠くて仕方がない。これでは昼の仕事ができなくなるので、何とか矯正しようと努力した。が、効果が上がらず放棄した。だから昼間はいつも睡魔と闘っている。
先日、恐れていたことが起こった。水戸で講演があって上野から電車に乗った。特急で1時間半だ。発車するとすぐ眠ってしまった。水戸駅に近づくと付き人として同行している娘に起こされた。眠気はまだ去らない。そして駅の階段を1、2段下りたとき、「これ以上我慢できない」という自覚が睡魔に身を預け、私の体は止めようもなく転落した。
しかし本能が作動し、昔身に付けた柔道の受け身でそれを受け止めた。すなわち落下する体をタテからヨコにし、さらに右を下にするという動作を行った。私の体は階段の上にヨコになって着地した。弾みで眼鏡が下まで飛んだが、これは縁もレンズも旅先での不慮の死の際に葬式代に充ててもらうつもりなので、かなり高額の物だ。そのせいか拾ったら傷一つついていない。
様子を見た人たちが飛んできた。「救急車だ!」と騒いでいる。「やめてください」と私は笑って(引きつっていただろうが)、「これから講演があります。お騒がせしてすみません」とおじぎした。「講演!?」と囲んだ人たちはあきれる。「せめて頭だけでも診てもらったほうが」。大きなお世話だ。なぜ手や足でなく頭なのだ。「大丈夫?」。まゆを寄せる娘に「何でもない」と手を振り、「皆さんにもご心配をかけました」と逃げるようにその場から退去した。そして所定の時間に所定の場所で仕事を済ませた。「来る前に駅の階段で落ちまして」などということは一言も言わない。すべてさりげなく何げなく日程を済ませた。
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