Access Ranking
19
ビズリーチ
代表取締役
南壮一郎
自分より優秀な人を雇うこと
日本初の本格的な「ダイレクト・リクルーティング」サービスとして始まった転職サイト「ビズリーチ」。2017年には登録会員数が100万人を突破、累計利用企業数は8200社以上にのぼる(2018年5月現在)。09年の創業以来、「インターネットの力で、世の中の選択肢と可能性を広げていく」をミッションに、東京本社ほか、大阪、名古屋、福岡、シンガポールに拠点を持ち、従業員数約1000名の企業に成長した。そんなビズリーチを率いる南壮一郎氏の成功の秘訣とは何か。そして、アントレプレナーに付きものの愚直さ、そして、それ以外に必要なものとは何か聞いた。
変わることに対する
怖さがなくなった
――2009年に創業されて9年が経ちましたが、現在のビズリーチについてどのように評価されていますか。
南スタートラインにようやく立てたと思っています。創業のころから事業づくりを通じて社会的課題を解決し、大きなインパクトを世の中に与えていく、そして、事業をつくり続けていく。それがわれわれの目指している会社の姿です。これまで多くの先輩たちがベンチャー企業からスタートし、時を経て大企業となっているわけですが、必ずしも規模の大きさを目指していないにせよ、大きく成長した会社は社会に大きなインパクトを与えています。
その意味で、私たちはまだ自分たちが目指している会社の姿になっていませんし、満足もしていません。今から会社の本当の歴史が始まる。そう思っています。
――この9年の中で、経営者として得たものとは何でしょうか。
南頭にあるアイデアをいざ実行に移してみると、さまざまな問題が起こります。課題解決に対して、経験と場数を積み重ねることができたと思っています。ただ、自分でいちばん大きく変わったと思うのは、「変わることに対する怖さがなくなったこと」です。変わり続けるものがいちばん強いのであって、変わり続けるためには学び続けることが大事です。それが自分の中でいちばん大きく意識改革できたことだと考えています。
ですから、日々の勉強量も圧倒的に増えました。それも座学だけでなく、経営者の先輩方から直接学びを得たりしています。そうした中で、自分の中の問題意識をきちんと解決する。そうした習慣がついたように思います。それまではプレーヤーとして反射神経だけで対応していたように思いますが、今は組織としてどう課題と向き合うのかを重視するようになりました。
――マネジメントを実行するうえで、ここは大事だというところは何でしょうか。
南自分より優秀な人を雇うことです。この人がやって失敗するなら仕方がない。そう思えるような人たちに自分たちの“バス”に一緒に乗ってほしいと思っています。その際、私が考える優秀さというのは、スキルや知識だけでなく、考え方や価値観を共有できることです。そうした人たちを集めることがマネジメントをするうえで重要なことだと考えています。
――そうした人たちをどうやって集めればいいのでしょうか。
南自分から声を掛けるしかありません。出会う機会をつくる以外、方法はないはずです。会社にずっといても、優秀な仲間は見つかりません。あの手この手で主体的に探しにいくしかない。私は優秀な人がいると聞けば、どこへでも行きます。地方だろうが、海外だろうが、週末だろうが、朝だろうが関係ありません。よく優秀な人がなかなか見つからないと言いますが、そうじゃないんです。世の中に優秀な人はたくさんいます。単に経営者の努力不足なんです。労力と時間をかけて、誠意や熱い感情を持って飛び込んでいけば、それに応えてくれる人を見つけることができるはずです。
――人を集めることと同様に、創業時、そして成長期に資金集めをすることは大変なことだと思いますが、秘訣のようなものはあるのでしょうか。
南もともと投資銀行で働いていたこともあり、投資家はなぜ投資をするのか、その勘所は理解しているつもりです。まずは投資の本質を要素分解して、要件定義をして、投資家は投資を通じて何を実現したいのか。誰のために何をすると、彼らは喜んでくれるのかを考えることです。これは営業と同じことです。お客様のことをきちんと知る。自分が伝えたいことを伝えるよりも、相手が何を考えているのか。何をしたいのか。そこを理解することのほうがコミュニケーションとしては大事なことだと思っています。いわば、聞く姿勢をもつことが重要です。
投資家の多くは、誰かからお金を預かっています。彼らは、その資金を投資することによって、どれくらいの期間でどれくらいリターンがあるのかを重視します。そのために彼らはどんなビジネスモデル、マーケットに注目しているのか。そうしたことを投資家の方々からきちんとヒアリングすることが先決です。そこで、自分の会社が彼らの御眼鏡に適うのであれば、投資をしてもらえるはずです。
また、自分のつくった事業計画が、どこまで確実に将来を見通せているのかも重要です。今あるファクトに基づいて自分たちの戦略を可視化して、いかに投資家に伝えるのか。それが資金調達のプロセスで重要な部分だと言えるでしょう。
仲間集め、採用活動は
全社員の仕事
――資金調達のために、時にアントレプレナーは自分の姿を実体よりも大きく見せがちになります。
南なぜ起業したのか。そこを思い出すべきだと思います。資金調達は起業のための手段に過ぎません。私の場合、起業家志望ではなかったので、余計にそう思うんです。あくまでも何かを実現したいがための一つの手段が起業であって、資金調達も手段です。
私の信条は人生を楽しむことです。世の中をより良くする事業をつくること。自分にとっては、それが楽しいことなんです。社会を変える機会、環境があるところで仕事をする。それが私の仕事観と言ってもいい。
起業家がビジネスをするうえで、いろんな価値観があり、やり方も多種多様です。にもかかわらず、今は誰もが教科書を求め過ぎるところがある。失敗の教科書はあっても、成功するための教科書なんてありません。楽天時代に野村監督(克也・当時)から「不思議な勝ちはあるけど、不思議な負けはない」と聞きました。だからこそ、負けた時は徹底的に分析する。勝った時は、調子に乗らない、準備を怠らない。まさに「勝って兜の緒を締めよ」なんです。
――創業以来、いちばん苦労されたことは何でしょうか。
南苦労したのは、会社を発足させた時です。私自身がインターネットの仕組みについてよく知らなかったにもかかわらず、インターネットのサービスで事業をつくろうとした。ある意味、無謀なスタートが会社を苦しめました。サービスをつくるうえで、私はエンジニアでもなければ、デザイナーでもない。マーケティングをやったこともないし、インターネットの会社で働いたこともない。当時はスタッフから「口を出すな」と言われたこともあります。だから、社長である自分は偉くないし、自分が会社をつくったなんて、これっぽっちも思っていません。いつも自分は仲間の一人、社長も役割分担だと思っています。
――会社を成長させるうえで、創業から愚直に続けていることは何でしょうか。
南仲間集めです。事業づくりは組織づくりであり、組織づくりは仲間探しだと思っています。われわれの会社は、事業づくりが本分であり、そこにコミットしてもらって、入社してもらっています。だからこそ、事業づくりのための仲間探しは全員の仕事なんです。それを創業時から全社員に伝えています。人の大切さを全員が理解したうえで、全員が採用にコミットして、採用活動に貢献していく。新入社員であろうが、エンジニアであろうが、デザイナーであろうが、全員がフェアに貢献していく、全員が参加できる事業づくりをしたい。そう思っています。
――他方、愚直以外で成功のきっかけとなったものはありますか。
南創業したタイミングが良かったのかもしれません。リーマンショック後に、日本経済も疲弊していく中で、逆張りで起業した。そのために余計なことにとらわれず、ビジネスを進めることができたと思っています。また、私は海外で育ったので、生産性を重視した仕事のやり方、考え方に触れる機会がありました。今、働き方改革が叫ばれていますが、当初から未来の働き方を見据えたうえで、起業したことも大きかったと思います。
――世の中を変えていく意味でも、人口減が進む地方自治体などと協力して地方の人材活用に関する事業を進めていますね。
南われわれのコーポレート・ミッションは、インターネットの力で世の中の選択肢と可能性を広げていくことです。われわれは採用に関するインターネットのプラットフォームを持っていますが、採用したい企業と仕事を探している人を、地域や物理的な距離に制約されることなく、全国規模でマッチングすることができる。われわれのサービスを使えば、福岡の会社が北海道の人を採用することができるわけです。
いわば、日本中の企業と日本中の働き手をつなげることによって、会社にとっても人にとっても選択肢と可能性を拡げることができる。東京で働いている人が地方で働きたくても、情報も手段もわからない。一方、採用したい会社も採用活動していることを全国的に知らせていない。そんな時、ビズリーチを使えば、互いの課題を解決することができるんです。
アントレプレナーとして
影響を受けた3人
――TVCMをよく見掛けますが、その効果は大きいですか。
南もちろん効果はあるでしょうが、それよりも今まで培ってきた営業の地道な努力の結果だと思っています。われわれはオンライン広告も自社運用しています。詳細な分析をもとに成果を一つひとつ積み重ねてきた。そのうえに、TVCMの成果があると思っています。
――現在の人材市場の動向について、どう見ていますか。
南これまで採用する企業は採用活動をアウトソーシングするところが多かったんですが、今は自社でリクルーティングの専門職を養成し、われわれのようなデータベース型の転職サイトを活用して、主体的・能動的に採用活動を行うようになっています。
当初、ダイレクト・リクルーティングと言っても、誰も見向きもしてくれませんでしたが、今では採用活動の一部になった。日本の経営者が採用に関して、もっと真剣に向き合うようになった。それが大きな変化だと考えています。一方、採用される側もキャリアを自分でコントロールするようになった。そうした中で、いかに優秀な人を採用するのか。それが将来の会社の競争優位性を決めていくと考えています。
――EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー(以下、EOY)には2012年に参加されています。
南私は現場でがんばっている社員たちの思いや伝えたいメッセージを広く世間に伝えていくのがいちばんの仕事だと思っています。おかげさまでEOYという素晴らしい舞台に参加させていただくことができましたが、自分たちの考えを棚卸しして、きちんと外部の方々にプレゼンして、何が響くのか、どこが評価されるのか。その腕試しができた良い機会だったと思います。今後もEOYを始めとした場で、自分の考えを発信していきたいと考えています。
――アントレプレナーとして影響を受けた方はいらっしゃいますか。
南楽天時代に3人の経営者のもとで仕事をさせていただきました。それが楽天社長である三木谷浩史さん、現在U-NEXT副社長を務めている島田亨さん(元楽天野球団社長)、ヤフー常務執行役員の小澤隆生さん(元楽天野球団取締役)です。
考え方や価値観は三者三様ですが、彼らからは大きな学びを得ました。三木谷さんからは“志”という言葉をいただきましたし、島田さんからは経営者としての人格、小澤さんからは「世の中を変えることは素晴らしいこと」であることを教わりました。私は、その3人の経営者のハイブリッドであると思っています。今も感謝しかありません。
――南さんが考える社会におけるアントレプレナーの役割とは何でしょうか。
南雇用の創出、社会の多様性、成長の起爆剤という三つに貢献することです。われわれはお客様の課題を解決して、お金をいただくビジネスを行っていますが、そうした事業を通じて日本社会をより豊かにしていくことが起業家の役目だと思っています。今も人手不足や企業のIT化、事業承継など多くの社会的課題がありますが、その課題解決に尽力したいと思っています。とくに日本経済の中で大きな規模を占めるサービス業の生産性向上にぜひ貢献していきたいと考えています。
――将来、会社をどう成長させていきたいと考えていますか。
南現在の新卒社員が10年後に事業長になっていることが当面の目標でしょうか。若い社員が社内で経営者として育っていく。そして、それぞれが事業部門のリーダーとして会社の成長を担っていく。それが私のいちばん願うところです。そのためにこれからも新しい事業やサービスをどんどんつくっていきたいと思っています。
文:國貞文隆
写真:今村拓馬
取材:2018年3月20日
南 壮一郎(みなみ・そういちろう)
ビズリーチ代表取締役
1976年生まれ。99年タフツ大学数量経済学部・国際関係学部の両学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券に入社するが、スポーツビジネスを志し、04年、楽天イーグルス創業メンバーとして球団立ち上げに参画。GM補佐、ファン・エンターテイメント部長などを歴任。09年4月に、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」を開設。
“世界一”を決める起業家表彰制度
EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤーとは?
EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤーは、1986年にEY(Ernst&Young=アーンスト・アンド・ヤング)により米国で創設され、新たな事業領域に挑戦する起業家の努力と功績を称えてきた。過去にはアマゾンのジェフ・ベゾスやグーグルのサーゲイ・ブリン、ラリー・ペイジらもエントリーしている。2001年からはモナコ公国モンテカルロで世界大会が開催されるようになり、各国の審査を勝ち抜いた起業家たちが国の代表として集結。“世界一の起業家”を目指して争うこのイベントは、英BBCや米CNNなど、海外主要メディアで取り上げられるほど注目度が高い。