「記憶に残る映画音楽が減っている」 久石譲が抱く音楽への危機感

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――山田洋次監督は国立音楽大学での久石さんとのトークセッションで、「映画音楽概論」といった講義を作るべきだと言っていました。

確かに、多くの人が映画音楽をムードで作ってしまっています。本来はちゃんとした理論が作れるはずですが、そういうのがまったくありません。なんとなくのイメージでやっている。それでも通用できてしまう世界でもあるから、問題なんですけどね。

――今回の『奇跡のリンゴ』だと、前半に音楽が多く流れ、後半になると状況音が中心となり、音楽が極端に減っているように思います。自分の音楽をどこに使う、ということは監督と相談されるわけですよね。

それはいちばん重要なところです。映画を2時間で構成するとなると、どこに音楽を入れ、どこに音楽を入れない箇所を作るかが重要になります。今回は、冒頭はエンターティメントでいかなければいけません。中盤は、(主人公の状況が悪い方向に)落ちていく。ただ、落ちたときに悲しげな音楽を入れてしまうと、その音が救いになってしまいます。だから音楽は抜くことにしました。普通なら「ここに音楽が入るな」という箇所もありましたが、あえて「抜きましょう」という話になって。そういう設計的な部分の考え方に関しては、中村義洋監督とも一致しました。だから、とてもやりやすかったですね。

(C)2013「奇跡のリンゴ」製作委員会

――阿部サダヲさん演じる主人公の木村さんの笑顔がなくなるにつれ、音楽もだんだんなくなっていきました。

そうですね。どんな場合でも音楽を入れると、どこかで浄化させる機能を果たしてしまいます。それよりは、悲しさをずっとため込むために、あえて音楽を流さないほうがいいということになったんです。

24分の1コマまで全部計算して音楽を作る

――音楽を映像に合わせる際、いくつかやり方があると思います。たとえば長い楽曲を渡して、映像に合わせて切ってもらう方法と、1分1秒、映像に合わせてそのつど作曲していく方法がある。久石さんの場合はどちらですか?

僕は基本的に全部、1秒のうち、(フィルムの)24分の1コマまで、全部計算して作ります。だから僕の場合は、映画の編集が終わらないと作業は始められないですね。

――じゃあ、尺(場面の長さ)の流れに合わせて勝手に音をフェードアウトされるなんてありえない?

選曲屋が作曲家の意図とは無関係に音楽を切り貼りしてしまう。テレビが苦手な理由はそこなんですよ(笑)。その点、映画音楽は監督と綿密な打ち合わせをして、すべて緻密な計算で構築しています。映画音楽は作品だと思って作っていますからね。そのスタイルを崩そうとは思いません。ただ、選曲屋でも、本当に才能がある方が出てきたら、委ねてもいいかなとは思いますけど、それは人によるでしょう。

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