「時計大手」エプソン、オリエント統合の意味 機械式時計の"技"はウエアラブルに活きるか

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加えて、オリエント時計をむしばんだのが、バブル期に行った財テクである。利益の底上げを狙い、1980年代後半にかけて、NTTや百貨店、銀行株に積極的に手を出したものの、バブル崩壊とともに巨額の含み損が発生。実質的な債務超過に陥った。

不振にあえぐオリエント時計がすがったのがエプソンだ。1990年代半ばからインクジェットプリンタ部品の生産事業を、2000年からは水晶部品の加工事業を開始。どちらも主要顧客はエプソンである。そして2000年代半ばには、売上高の約半分をエプソン向けが占めるようになる。

同時に、増資引き受けを通して、オリエント時計に対するエプソンの持ち分も次第に増加。1997年には筆頭株主となり、2001年には52%の持ち分を保有、オリエント時計を子会社化する。それでも、アジア通貨危機を引き金とした業績悪化がとどめとなり、2003年には3期連続債務超過で上場廃止に。その後2009年にエプソンの完全子会社となったのだった。

エプソンは高価格帯で持ち直し

エプソンの自社製品であるウエアラブル機器「PUL SENSE」

オリエント時計を完全子会社化した後、エプソンはプリンタ部品や水晶振動子など、エプソン関係の事業を行っていた子会社の秋田オリエント精密を、エプソンの直接子会社にするなどの再編を行う。再び、オリエント時計を機械式腕時計を中心とした事業体へと転換させ、債務超過も解消した。ただ、直近2期は最終赤字を計上しており、利益改善を完全に果たしたとは言えない。このことも今回の再編の背景にあると思われる。

一方、救ったエプソンにとって、時計関連事業が今後の注力事業であるという点も、再編を後押しした要因だろう。エプソンのセイコー関連事業は、クオーツ式腕時計の低価格化に伴い、苦戦した時代もあった。だが現在では、GPS機能付き腕時計「アストロン」、機械式とクオーツ式を融合させた「スプリングドライブ」という駆動方式を用いる「グランドセイコー」など、高価格製品の開発を成功させたことで持ち直している。

さらに2012年からは、一般向けのリスト型のウエアラブル機器を発売。GPSや心拍数計を使った活動量計用途を中心に展開している。セイコー向けビジネスに加え、オリエント時計やウエアラブルなど、時計関連事業が増えたことを受けて、2015年にはウエアラブル機器事業を新設。各事業を統合した事業運営を推し進めるようになった。2016年3月期における時計やウエアラブル関連事業の売上高は607億円。それを2025年に2000億円にまで伸ばすのが目標だ。

今回の事業再編は、オリエント時計の統合を前提にしているものの、具体的な再編方法については検討段階である。オリエント時計は機械式、セイコー向けはクオーツ式、エプソン自社製品はウエアラブルと、それぞれ事業分野も異なる。そのため、一朝一夕に利益拡大につなげていくことは、容易ではない。100年以上にわたってオリエント時計が培ってきた技術やブランドをどう生かせるか、時計メーカーとしてのエプソンの成長が左右されるかもしれない。

渡辺 拓未 東洋経済 記者

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わたなべ たくみ / Takumi Watanabe

1991年生まれ、2010年京都大学経済学部入学。2014年に東洋経済新報社へ入社。2016年4月から証券部で投資雑誌『四季報プロ500』の編集に。精密機械・電子部品担当を経て、現在はゲーム業界を担当。

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