スタンフォードで体得した! 効率よく知力を鍛える勉強法《若手記者・スタンフォード留学記 29》

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 私は、教師としての大学教授の力量は、(1)構成力(授業のテーマや教材の選び方、その順番の決め方)、(2)司会者としての能力、(3)批評家としての能力、の3つにあると思っているのですが、(1)の構成力は、実際に授業を受けなくても、見極め可能です。

ある教授が進めている課題図書をまず読んでみて、退屈かつ凡庸なものが多ければ、もう読み進める必要はありません。一方、試し読みして面白いと感じたら、その教授の推薦図書をぶっ通しで読んで見ることです。そうすれば、授業を実際に受けるのと遜色ないレベル、いやときにはそれ以上の知力向上を望めるはずです。

実際、昨年の夏休み、上記の手法を実践すべく、インドア派の私は(笑)、ひたすら図書館にこもって論文・書籍を読み漁ったのですが、このときに一番知力の向上を実感しました(大学生活で、夏休みに一番成長したというのも変な話ですが(笑))。2年目になって、レポートの成績が格段に向上したのも、この鍛錬のおかげだと思っています。

この例に限らず、「勉強の真髄とは自習である」とこの頃痛感します。というのも、最近、教室というリアルな場所を共有して、皆で授業を受けることのメリットをあまり感じなくなってきたのです。

授業を受けていても、課題図書の枠組みからはみ出た斬新な意見は本当に稀で、大半がどこかで語られた話の繰り返しです。授業で生徒同士が討論するというのは、さほど知力向上には役立たない、というのが私の実感です。討論というのは、やはり高度な専門知識を共有した人間同士でなされるとき、最も効果が出ます。

加えて、大学で授業を受けながら課題図書を読んでいると、どうしても「やらされている感」が出てきます。選択科目でなく必修科目であれば尚更です。学期中は、レポートにプレゼンに課題図書に、いつも忙しくして、相当勉強しているような気がするのですが、意外と頭に残っていないものなのです。

その点、シラバスを利用した独習は能動的ですから、知識の吸収スピードが速い。個人的に、知力向上に最も大切なのは、”好奇心の持続”だと思っていますから、楽しく勉強する工夫は極めて重要です(まあ、これは昔から好きなことだけを集中して勉強する私の性格のせいかもしれませんが(笑))。

楽しい独習によって基礎を築く。そして、その基礎をベースとして、左派系の『ニューヨークタイムズ』、右派系の『ウォールストリートジャーナル』、そして中道の『エコノミスト』を常時読んで、新しい知識をアップデートしていく。それを習慣にすれば、世界のどこに行っても通用する知的基盤が出来上がるはずです。

日本帰国後は、アメリカで習得したこの自習スタイルをさらに進化させたいと思っています。世界の論調を常にカバーしつつも、欧米発の視点を鵜呑みにするのではなく、それをときには批判的に分析し、日本人としての独自性・付加価値をつけた上で発信する--そうした能力を高めることが、次なる私の目標です。

佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
 1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

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