《若手記者・スタンフォード留学記24》日本の戦後史はあまりにも面白くない

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 今学期、「北東アジアのアメリカ外交」という授業を履修しています。

その内容はといえば、タイトルそのままに、日本・中国・韓国に対するアメリカ外交の歴史と未来を考えるというものです。

講師の一人は、1989年~93年にかけて元駐日大使を務めた、マイケル・アマコスト氏。“日米貿易摩擦”や“湾岸戦争”の際、度々メディアを賑わし、“ミスター外圧”と呼ばれた人物と言えば、ご存知の方も多いはずです。

ろくなことがない「平成」という時代

この授業の中で、最初の4週間ほど、“日米同盟”などを中心に日本の戦後史を学んだのですが、そこで改めて感じたのは、「本当に日本の戦後史は面白くないな」ということでした。

「日本は戦後ずっと防衛を米軍に依存し続けている。日本には憲法9条というものがあって、集団的自衛権は保持していても、行使できないという解釈になっている」とか「日本は湾岸戦争のときに、人的貢献なしで金だけを払って、“小切手外交”と呼ばれた」とか、そんな説明をアメリカ人や他のアジア人学生に交じって聞くのは、あんまり心地よいものではありません。

もちろん、経済面では、日本の戦後は、未曾有の高度成長を遂げた栄えある歴史といえるのですが、外交面では、佐藤栄作政権下における1969年の沖縄返還以来、大きな出来事はほとんどありません。

とくに、面白くなさに拍車がかかるのが、1989年以後の平成の時代。バブル崩壊、湾岸戦争、地下鉄サリン事件、阪神大震災などなど、平成の時代と言うのは、日本にとってろくなことがありません。

頼みの経済も、失われた10年を経て、回復軌道に乗ったかと思ったら、世界金融危機勃発。アメリカの消費バブルに頼った、日本の輸出バブルは崩壊してしまいました。

今回の危機は、一時的なショックでは終わりません。巨額の貿易赤字と財政赤字によって、無理に膨らましてきたアメリカの消費水準は、危機以前の姿に戻ることはないでしょうし、同じく、アメリカの需要に支えられてきた中国の成長も失速しました。つまり、米中向け輸出のみに頼った日本の経済モデルは破綻をきたしたわけです。

アジア経済を特集している今週の英『エコノミスト』誌は、皮肉交じりにこう述べています。「かつて日本は、“輸出主導の繁栄“というモデルを示し、アジアのリーダーを自認していた。今こそ他のアジア諸国は、日本を頂に置く既存の序列を打ち破るべきだ」(”Asia’s Suffering”、The Economist, Jan 29th、2009)。

経済面でも、日本はアジアのリーダーから落っこちようとしているのです。

「ジャパン・パッシング」はもう古い

こうして暗い話ばかり述べてきましたが、悲観論ばかり並び立てて、「ジャパン・パッシング」を繰り返しつつ、世を慨嘆する文章にはしませんので、ご心配なく(笑)。

そもそも「ジャパン・パッシング」というのは、日本が受身で、日本がアメリカの視線ばかりを気にしすぎているからこそ生まれてくる言葉です。非常に消極的な姿勢と言えるでしょう。

以前、スタンフォードの教授と話していたとき、こんなことを言っていました。

「この前、日本の外交官たちと話したら、皆そろって、ヒラリー・クリントンが論文で日本に言及せず、“米中関係が最重要”と述べたことについて憤っていた。でも、もうちょっと冷静になったほうがいい。“最重要”というのは、必ずしも米中が『仲良くする』わけじゃなくて、米中間に『多くの問題がある』から重要性が高い、という意味なんだから」と半ば呆れ顔で言っていました。

もういい加減、精神的にアメリカにおんぶにだっこの姿勢から卒業すべきだと思います。世界が多極化に向かっている以上、アメリカとの関係を一歩引いて眺めることが、経済でも外交でも重要になります。

たとえば、「アメリカと連携して中国を封じ込めよう」という発想は、どんどんリアリティーを失っています。アメリカは中国に巨額の借金をしているわけで、債権者に大きな顔をできない。しかも、金融立国が破綻したアメリカにとって、次なるフロンティアは中国市場くらいしかない。結局、アメリカの戦略は、莫大なお金を貸してくれている日中両国の機嫌を損ねないことが中心となるので、いたずらに日中の対立を煽るようなことはしないでしょう(参照:(6)オバマでもマケインでも変わらぬ対中融和政策)。

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