子どもの「自己肯定感」安全に育むための遊び方 「かわいい子には旅をさせよ」を実現させるには

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脳医学者である瀧靖之氏とNPO法人 Safe Kids Japan理事の大野美喜子氏
子どもたちの好奇心を刺激し、自己肯定感を高めるファクターになる自然体験。しかし、自然に危険はつきもの。親は事故やケガにつながらないかと、気をもむことも少なくないだろう。自然体験を通じて得られる挑戦の価値と、リスク回避とのバランスをどう考えるべきか。脳医学者である瀧靖之氏と、子どもの事故やケガの予防に関する活動を展開するNPO法人 Safe Kids Japan理事の大野美喜子氏が語り合った。

自己肯定感育む自然体験には危険もつきもの…?

――脳科学の観点から、自然体験が子どもの自己肯定感を育むといわれる理由についてお聞かせください。

瀧 靖之氏(以下、瀧) 自然は昆虫、草花、星など無限の広がりを持っており、子どもはさまざまな発見を通して好奇心を刺激されます。自然への純粋な興味を起点に、さらに知識を深めるため、自発的に図鑑を手に取って学びを深めるお子さんもいるでしょう。

自己肯定感は自分を大切な存在だと感じられる「自尊感情」と、自分は努力で変われると信じられる「自己効力感」で成り立っていますが、自然体験によって学びが深まり自信がつくことで、こうした2つの感情も大きく育まれます。

医師・医学博士・東北大学加齢医学研究所 教授・CogSmart代表取締役 瀧靖之氏
医師・医学博士・東北大学加齢医学研究所 教授・CogSmart代表取締役
瀧靖之氏

大野 美喜子(以下、大野) 私自身、田んぼに囲まれ、人よりも動物が多いような環境で幼少期を過ごしたので、自然に育んでもらったという実感があります。道にきれいなものが落ちていると思って、触ったらヘビだったこともありました(笑)。

都会で暮らしていると、そうした経験に乏しくなってしまいますよね。実際に私の子どもは2人とも都会育ちで、自然との接点が少ないため、意識して自然体験を提供することが重要だと感じています。

NPO法人 Safe Kids Japan理事・産業技術総合研究所 人工知能研究センター 主任研究員 大野美喜子氏
NPO法人 Safe Kids Japan理事・産業技術総合研究所 人工知能研究センター 主任研究員
大野美喜子氏

――あえて自然体験のデメリットを挙げるとすると、何がありますか。

大野 自然体験には事故につながるリスクもゼロではありません。私は子どもの事故やケガの予防に関する研究を行っていますが、日本では、1〜14歳の子どもの死亡原因の上位は、「事故」(自然体験以外の交通事故や転倒、やけど、窒息等も含む)となっています。

子どもの死因順位
出典:厚生労働省「人口動態調査」(令和3年)

例えば海や川などでの自然体験は、溺れなどの水難事故のリスクと隣り合わせです。溺れた子どもを助けに行った大人が犠牲となるケースも多くあります。

好奇心の芽を摘まず「子どもの挑戦」後押しするには

――事故のリスクと、自然体験を控えることによる機会損失を、どのように天秤にかけることが望ましいのでしょうか。

 これは本当に難しい問題で、悩まれている親御さんは多いのではないでしょうか。私自身、子どもにケガをされるのが怖くて、ついつい「転ぶから走るな」などとブレーキをかけてしまいます。

ただ、まったく自然体験をしたことがないと、子どもがリスクを認識できないという問題も起こります。「木から落ちると痛いんだ」など、命に関わらない範囲であれば、痛みの経験も子ども自身のリスクと挑戦のバランス感覚をつくることにつながります。親は大事故や大ケガにならないように目配りをしながらも、ある程度の痛みを伴う可能性があったとしても、それを許容し、挑戦の芽を摘まないことが大切だろうと思います。

大野 危険を避けることとチャレンジすることがトレードオフのように語られることが多いですが、重症の事故を防ぐための準備を徹底すれば、両立が可能であると考えています。

先ほどお話しした水難事故を例に挙げると、水深が5cm変わるだけで体にかかる力が大きく異なるとわかっていますので、浅瀬であっても「ライフジャケットを着用する」ことが、命の防波堤となります。

しかし、子どもの安全以前に、大人自身も「今回しか使わないライフジャケットを買うのはちょっと…」「浅瀬しか入らないから大丈夫だろう」と、購入・着用していないケースがあります。海外の研究では、親が自転車のヘルメットをかぶっていると子どももかぶる傾向があることがわかっていますが、そうした事例と同様、まずは親や大人が自分自身の意識を変え、安全で楽しく遊ぶ姿を見せることが大切です。
※Safe Kids 「Ready for the Ride Keeping Kids Safe on Wheels」(May 2017)

ライフジャケットを着用する様子
浅瀬であっても「ライフジャケットを着用する」ことが、命の防波堤となる 
画像提供:ダイワヤングフィッシングクラブ(グローブライド)

 子どもは身近な大人の行動を模倣してさまざまな能力を獲得していきますから、自然体験では大人が率先してライフジャケットを着用するなど、見本になることの重要性には大変共感します。私自身、冬場は子どもとよくスキーをしに出かけるのですが、つねに私が先に滑って、このくらいの斜面だとこのくらいのスピードが出るというように、暗に適切な行動を示すようにしています。

――体験したことがないアクティビティーについては、つい挑戦に尻込みしてしまいそうです。

大野 未体験の分野ではもちろん不安になるかと思いますが、「わからないからやらない・やめなさいと止める」のではなく、まずは事前に必要な準備について学ぶところからスタートしたいですね。自然体験においては、例えば山や川であれば周りにAEDのある場所を確認したり、天気が急変した時の避難場所を下見したりすることも重要です。

私は保護者の方々に事故予防の知識をお伝えする活動もしていますが、重要なのは、「少しの間、子どもから目を離してしまっても大きなケガをしないための安全な環境をつくること」。普通は「目を離さないように」と言われますが、それができるなら悩みませんよね。目を離せるような事前準備・対策が大切!というのが今のメッセージです。

NPO法人 Safe Kids Japan理事・産業技術総合研究所 人工知能研究センター 主任研究員 大野美喜子氏
「目を離さない」のではなく、「目を離せる」ように事前準備・対策をすることが重要

子育ては親育て?「かわいい子に旅をさせる」難しさ

――「危ないこと」と「挑戦すること」を見分けるコツはあるのでしょうか。また危険を回避・予防するために、子どもに教えられることはあるのでしょうか。

大野 危険な行動と安全な遊びの境界というのは、子ども一人ひとりの性格や体格、能力などによってさまざまですから、見定めるのは簡単ではありません。また小さな子どもによく見られる、「口に物を入れる」「高いところに登る」などの大人から見ると危険な行動も、発達段階で自分の環境を認識するために出てくる行動なので、それを止めることはできません。

子どもが大きくなってきたら、遊具での遊び方など、何が危険かを教えてあげることは重要なのですが、小さい子どもは危険に対する判断力が未熟なので、リスクのある行動をしても命に別状がないような環境を整え、準備をすることが先決です。

――感情論として、子どもが大切なあまり、「可愛い子には旅をさせよ」を実践できない親も多いと思います。可愛い子に旅をさせるには、結局のところ親にどのような心構えが必要になりますでしょうか。

 私自身は子どもがかわいくて仕方がなくて、なかなか旅をさせられていない親の一人です(笑)。何も言わずに自由にさせるのが、親にとってはいちばん難しいことですよね。私の母親は珍しくまったく口を出さない性格で、そのおかげで伸び伸びと好きなことをして育ったなと思っています。

一度だけ、ひもで遊んでいて、首に巻きつけた時に、「それは絶対にしてはいけないこと」ととても強く諭されました。幼稚園の頃だったと思いますが、普段あまり口出しされることがなかったからか、その時の記憶は今でも明確に覚えています。本当に危険なときだけ叱るからこそ、子どもはギリギリのラインを理解することができるのだと思います。

医師・医学博士・東北大学加齢医学研究所 教授・CogSmart代表取締役 瀧靖之氏
子育ては親育て。リスク対策は徹底した上で、口出しせずに見守ることで、子供は成長する

大野 私は割と離れることに寂しさを感じないタイプで、旅をさせているほうかと思います。娘が小学校に上がる前に、祖父母の家に一人で行きたいと言うので、飛行機に乗せて向かわせたこともありました。私自身、中学校卒業後に実家を出て、高校では寮生活、その後渡米などを経験して成長したと感じているので、子どもたちには自立のためにも自然体験含め、どんどん外へ出てさまざまな経験をしてほしいと思っています。

ただ、今日の事故の話もそうですが、想定されるリスクに対しては親も十分に学び、最低限の準備をすることが大事です。そのうえでなら、旅をさせてよいと思います。自分が寂しいのは耐えて忍ぶと(笑)。

 「子育ては親育て」とも言いますが、親が見守る力、寂しさに耐える力をつけることが大事ですね。私も子どもと1週間離れると寂しくて仕方がないような親なので、自分に言い聞かせています(笑)。干渉する愛情もあれば、干渉しない愛情もある。子どもの発達段階を見極めながら、リスク対策を徹底したうえで、自分も親として子どもの成長を見守っていきたいですね。

グローブライドは、世界有数のフィッシング総合ブランド「DAIWA」で知られるスポーツ関連企業だ。このフィッシングを主力事業に、ゴルフやラケットスポーツ、サイクルスポーツの4事業を手がけている。またグローバル企業として、国内および海外(中国、タイ、ベトナム、英国)に生産拠点を有し、米州、欧州、アジア・オセアニアを含む世界4極で主力事業を展開している。

フィッシングの「DAIWA」とともに広く浸透してきた「ダイワ精工」から、創業50周年を機にグローバル企業への成長といった強い意志の下、2009年10月に現在の「グローブライド」へと社名を変更した。

withコロナ時代において、中核事業の「フィッシング」は「3密」を避けたアウトドアスポーツ・レジャーとして評価され、「ニューノーマル」が定着する中、その業績も好調だ。

環境活動にも積極的に取り組んでおり、CO2を吸収する森林保全や環境配慮型製品の開発なども推進している。

40年以上続くD.Y.F.C(ダイワヤングフィッシングクラブ)の運営にも力を入れており、未来を担う子どもたちと釣りを楽しみつつ、自然体験を通し「自分で考え、自分で工夫し、自分で動く」学びの場を提供している。

「グローブライド」という社名には、地球を舞台にスポーツの新たな楽しみを創造し、スポーツと自然を愛するすべての人に貢献したいという思いが込められている。

世界中の人々に人生の豊かな時間を提供する「ライフタイム・スポーツ・カンパニー」として、今後も地球を五感で楽しむ歓びを広め、アウトドアスポーツ・レジャーの未来を拓いていくユニークな企業だ。