EUの新北極戦略は、ロシアのみならず、バルト海などにおいて中国船の関与が疑われている海底ケーブル切断事件などをの動向を強く意識し、同様の脅威が北極海に波及することへの対抗策強化を盛り込んでいる。
21年から26年にかけてバルト海では商業船による過失事故を装い、平時に重要インフラを麻痺させるロシアと中国のハイブリッド攻撃ではないかとEUが警戒を強める事案が相次いだ。
中国船による「ハイブリッド戦」とEUの対抗策
例えば23年10月には、中国の海運会社が運航する香港船籍のコンテナ船「新新北極熊」が錨を引きずり、フィンランドとエストニアを結ぶガス・パイプライン「バルティコネクター」や通信ケーブルを損傷させた。
さらに24年11月には、ロシアの港を出港した中国籍の貨物船「伊鵬3号」が錨を引きずったまま航行し、リトアニア・スウェーデン間、フィンランド・ドイツ間の海底ケーブルを相次いで切断した。
ドイツの国防大臣ボリス・ピストリウス氏は、当時、「これらのケーブルが誤って切断されたとは、誰も信じていない」とまで発言していた。意図的な妨害工作との見方が示されてきたように、商船を用いたグレーゾーン攻撃の脅威が将来的に北極海でも再現されかねない、という強い危機感が今回のEUの北極戦略に反映されていると言えよう。
新北極戦略は、北極圏の軍事防衛において北大西洋条約機構(NATO)が主導的役割を担っていることを前提とし、EUのすべての取り組みがNATOの集団防衛を補完するものであると明記している。
具体的な対抗策として、EUの2大旗艦宇宙事業である地球観測衛星「コペルニクス」と衛星測位システム(欧州版GPS)「ガリレオ」の運用を拡充し、北極圏における兆候探知や宇宙からの監視能力を強化する方針を打ち出した。
新北極戦略は、包括的な「海洋安全保障ハブ」構想を掲げ、その第1段階として、海底インフラの監視、保護、修復を担う「北極海ケーブルハブ」の整備を盛り込んだ。不審船舶、違法漁業、海洋汚染への対処能力を包括的に高める狙いがある。

