その一方で、夫は家計についてほとんど知りませんでした。毎月いくら生活費がかかっているのか。教育費はいくらなのか。保険料はいくら払っているのか。そして、貯金がいくらあるのか……。妻に任せっきりで一切、聞いたことがありませんでした。
とはいえ、自分は年収800万円。妻も派遣で年200万円ほどの収入があります。世帯年収なら1000万円前後です。しかも自分の小遣いは月3万円。大きな買い物をしているわけでもない。「まあ、1000万円くらいはあるやろ」と思っていました。
ある日、子どもの教育費について話していたとき、ふと気になって妻に聞きました。
「そういや、うちって今、貯金いくらあるん?」
妻は少し間を置いて答えました。
「……50万円くらい」
夫は聞き間違えたのかと思いました。
「え?」
「50万円くらい」
「いやいや、50万って……残高じゃなくて?」
一瞬、頭が真っ白になりました。
「俺、全部渡してたやん」
思わず、そんな言葉が出ました。
「それで1000万円も使うか?…いや、使うわ」
当然、夫が次に気になったのは「何に使ったのか」でした。妻と一緒に振り返ってみると、何か1つ大きな出費や浪費があったわけではありませんでした。家族で毎年行っていた旅行。週末の外食。子どもが生まれてから増えたレジャーや日々の出費。夫自身も一緒に楽しんできたものばかりでした。
「でも、それで10年で1000万円も使うか?」
夫はいったんそう思いました。しかし、家族5人で毎年旅行へ行き、外食を重ね、3人の子どもを育ててきた10年間を思い返してみると、「……いや、そりゃ使うわ」と妙に納得したそうです。
もちろん、もっと計画的に貯められた可能性はあります。それでも夫は、「まあ、思い出代やったならええか」と思いました。
旅行先で撮った家族写真もある。子どもたちが喜んだ場所も覚えている。自分も外食や旅行を楽しんできた。使ったお金が全部「無駄だった」とは思えませんでした。問題は、使ったことではありません。どれだけ使い、どれだけ残っているのかを、夫自身が何も知らなかったことです。


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