この「温泉探索」と呼ばれる現地調査には、香料担当として佐々木さんも同行している。ひとつの温泉地で複数の温泉を調査するため、2泊3日の行程で20から30カ所の温泉施設を回る。
「1回の入浴で5分くらいしかお湯に浸からないので、めちゃくちゃ忙しいです(笑)。しかも、温泉のお湯は硫黄の香りがほとんどで、それだけでは差別化が難しいんですね」
街並みや名産品など温泉地の「情緒」を香りにする
では、どうやってその温泉地の「香り」を作っているのか。佐々木さんが重視しているのは、温泉地独特の「情緒」だ。
「露天風呂から見えた風景や、温泉街を歩いたときの雰囲気、その土地の名産品などからインスピレーションを得て、その温泉地を香りで表現しています。現地を訪れたような気分を自宅で味わっていただくためにも、私たちが現地に行かなければいけないんです」
特に思い入れのある温泉地は「別府」だという。別府の温泉街を歩いたとき、あちこちの路地から湯煙が立ち上っていて、まるで街中を温泉が流れているようだった。佐々木さんは、白い湯けむりに包まれた街並みと、特産品である和柑橘「ざぼん」をイメージして、「別府」の香りを作り上げた。
「『日本の名湯』シリーズは、各温泉地の自治体や団体に品質を確認していただいたうえで、『温泉地公認』のマークを付けて商品化しています。現地の方々に『これならうちの温泉がイメージできる』とお墨付きをいただけるのは、やはり嬉しいですね」
後編では、「ひどい花粉症」だという佐々木さんが調香師になった経緯や、AIでは表現が難しい香りの「隠し味」の秘密など、「人間にしかできない仕事」をさらに深掘りする。


※ログイン後、コメント入力が可能です。