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リスク分散の時代における企業制度改革の本質とは何か? 経済安全保障の内在化が求められる理由(下)

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企業制度改革と経済安保は密接に関係する(写真:takeuchi masato/PIXTA)
  • 北村 滋 元国家安全保障局長、北村エコノミックセキュリティCEO

INDEX

(上)に続き、リスク分散の時代における企業制度改革の本質を、経済安全保障の観点から考察します。

M&A指針における企業価値の定量的把握

企業買収は価格の妥当性を中心に評価されがちである。しかし「企業買収における行動指針」は当初から、望ましい買収とは企業価値の向上と株主共同の利益の確保の双方に資するものであって、高値であることのみをもって望ましい買収となるわけではない、という立場をとってきた。

2026年7月に公表された、「ポイント・Q&A」は、少なくとも買収実務における企業価値を「将来にわたって生み出すキャッシュフローの割引現在価値の総和」という定量的な概念として明示したうえで、サプライチェーンの強靱化や技術情報の流出防止といった経済安全保障に対応する経営もまた、将来キャッシュフローの増加や割引率の低下を通じて企業価値を構成しうるとした。

経済安全保障は、企業価値の外側に置かれた別の物差しであるとは限らない。少なくとも買収判断の局面では、その一部が内側の定量的な評価要素として取り込まれている。

したがって取締役会は、これを当然に視野に入れることになる。買収によって調達網が脆弱化し、あるいは技術情報が流出する可能性があり、それが将来キャッシュフローや割引率に影響すると合理的に見込まれるのであれば、ディスシナジーとして考慮できる。外為法や独占禁止法の許認可等が得られる蓋然性は買収提案の実現可能性を測る要素となり、買収者やその出資者の属性も検討の対象に入る。

ただし、そこには明確な制約が伴う。測定が困難な定性的価値を過度に強調して企業価値の概念をあいまいにしたり、保身を図る道具としたりしてはならない。定量化できないこと自体が問題なのではない。問題は、定量化困難性を理由に、判断過程や影響の見積もりを株主に説明しないことである。

牧野フライス製作所の事案は、この論点の境界を可視化した。同社の取締役会が賛同していた買収について、政府は26年4月、外為法27条5項に基づく中止勧告を発した。理由として示されたのは、同社が輸出に経産大臣の許可を要する高性能工作機械を製造し、その製品や関連情報が国内の防衛装備品メーカーで広く用いられているという事情である。

これは国家の側の利益であって、必ずしも同社の将来キャッシュフローの問題ではない。取締役会が企業価値の向上を見込むことと、国家がその支配権移転を安全保障上許容しないことは、論理的に両立する(注)。

(注)牧野フライス製作所に対する買収提案をめぐり、政府が外為法27条5項に基づく中止勧告を行った事案は、取締役会による企業価値判断と、国家による安全保障上の公益判断が論理的に併存し得ることを示す例として位置づけられる。

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