こうした光景は、探究学習に力を入れる私立小学校や小規模のオルタナティブスクールで見かけることはありました。しかし、ここは公立小学校です。児童数700人を超える規模の学校で、これほど多くの子どもたちが、どうやって自分のテーマを持ち、生き生きと表現できるようになったのでしょうか。
それは、自由進度学習や教科探究を取り入れた日々の授業と、自立学習を支える教師たちの教材研究、学習環境づくりの積み重ねによって育まれていたのです。
子どもを教室に合わせるのではなく環境を変える発想に転換
三鷹第三小学校の改革の出発点には、一斉指導だけでは多様な子どもたちを支えきれないという課題がありました。約5年前、授業中に教室から出たり、廊下を歩いたりする子どもが目立ち、一人の担任、一つの学級だけでは対応しきれない状況が生まれていたといいます。
そこで当時着任した山下裕司前校長が考えたのは、教室を出る子どもを元の席に戻し、全員と同じように座らせることではありませんでした。みんなが動けば、動きの多い子も目立たない。それぞれが自分に合った学びの形を作れば良いのではないかと教室外に学べる環境を作り、同時に授業研究を行いました。つまり問題を子どもの側だけに求めず、多様な子どもが学べるように、授業と環境の側を変えようと発想したのです。
そこで、奈須氏を招き、教員たちと新たな授業づくりに取り組みました。当初はそんなことができるのかと懐疑的だった教員たちも、チームとなって個別最適な学びや探究的な授業づくりを研究し、その考えを実際の授業に落とし込み、学校全体へ広げて行きました。その中心メンバーの1人が、現在、主幹教諭を務める山下先生です。
同校では、算数と国語など複数の単元を組み合わせ、年間標準時数の約1割にあたる時間の中で、子どもが学ぶ順序や進度を決めるマイプラン(自由進度)学習や教科探究といった一斉指導以外の学習活動を行っています。
自由進度学習というと、プリントやタブレットを渡し、「自分のペースで進めなさい」と子どもに任せる授業を想像するかもしれません。しかし、三鷹第三小学校の実践はそれとは異なります。
教科の「学習の手引き」には、単元で学ぶべき内容が網羅され、子どもが自分の理解に応じて段階を踏めるように工夫されています。単元で何を身につけるかは明確にしながら、どの順番で、どの教材を使い、誰と、どこで学ぶかは、できる限り子ども自身に委ねるのです。これにより、全員が一律に同じ時間、同じ内容を学ぶのではなく、自分の問いに合わせて仲間と必然的に協働し、問題解決を進められるようになるのです。


※ログイン後、コメント入力が可能です。