20年前にはなかった、「鮮度」の概念
桃の節句を祝うため、愛娘と手巻き寿司を食べようとした父は、醤油を小皿に注いだ瞬間に小さなため息を漏らした。その醤油は黒く酸化し、一目見ただけで風味が落ちていることがわかる。「せっかくのお祝いなのに……」とがっかりしているのは自分だけ。家族は気にも留めず、思い思いに手巻き寿司を楽しんでいる。彼はあきらめて黒ずんだ醤油を寿司につけると、一気にかぶりついた——。
スーパーの醤油コーナーに足を運ぶと、「鮮度」「新鮮」「できたて」という文字がプリントされた商品が並んでいるのを、よく見かけるだろう。多くは液量を調節できるボトルタイプで、どれも「醤油の鮮度」をアピールするパッケージだ。しかし、これがおよそ20年前にはなかった光景だと言ったら、どれくらいの人が驚くだろうか。
長らく、醤油の品質は変わらない、と思われてきた。どの家庭も1L前後のボトルを買ってきて、1カ月以上かけて使い切るのが当たり前。賞味期限は確認しても、鮮度を気にする消費者はほぼいなかったのではないかと思う。けれど、その常識に「待った」をかけた人物がいた。それが冒頭の父親であり、ヤマサ醤油の商品開発担当だった藤村功さんだ(現在は退職している)。


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