迎えた2009年8月、ついに「ヤマサ 鮮度の一滴 特選しょうゆ 500mlパウチ」がお目見えした。常温保存が可能ながら、色も風味も作りたての状態を70日間(発売当時)保つ鮮度保持容器は、業界の誰もが見たことのない商品だった。
「醤油の鮮度」を常識に変えた方法
当時、営業を担当していたマーケティング部 営業戦略室 室長 矢野拓也さんは、製品が発売されたときの心境をこう語る。
「これは醤油の革命だ、と思いました。全社一丸となって販売していかなきゃいけない、と。醤油の鮮度とおいしさ、この2つをお客様に伝えることを考えると……いち営業担当者として非常にワクワクしました」
開発側も営業側も、「会社全体で押し出すべき商品だ」と使命感にも似た思いを抱いたことで、社内の雰囲気はひとつになっていった。だが、この商品はただ売るのではなく、「醤油の鮮度」という概念とともに売る必要がある。そこで、まずは首都圏で半年ほどテスト販売を実施し、段階的に全国販売へと踏み切った。
さて、これまでにない価値観・商品を訴求するにあたり、同社では2つの施策を柱に、大規模なプロモーション活動を行った。
1つ目の策は、テレビCMだ。俳優の麻生久美子さんを起用し、「しょうゆの敵は空気」「空気がしょうゆを酸化させて、黒くまずくするの」と単刀直入に訴えかけた。CMの最後は「お宅のしょうゆは赤いですか?」という問いかけで締めくくられ、つい確かめたくなる構成とした。
2つ目の策は、大々的なデモンストレーション販売だ。開封したての醤油と1カ月ほど経った醤油を並べ、買い物客に色の濃さや香りの違いを体感してもらった。先にCMが全国放送されていたことで、「あぁ、あの商品か」と一層客の興味を引いたようだ。CMで刷り込んだ「鮮度」の認識を、売り場で納得させる。これが見事に噛み合い、「醤油には鮮度がある」ことが、少しずつ食卓に浸透。販売数が徐々に伸びていった。
だが、パイオニアの物語はここで終わりではなかった。このあと同社は、自ら生み出した世界初のヒット商品を、「あえて捨てる」ことを選んでいる。時間も資金も投じた商品を、一体なぜ捨てたのか——。苦闘の17年の歩みについては、後編で語る。


※ログイン後、コメント入力が可能です。