さまざまな社会問題を取り上げ、世の中に発信するノンフィクションライターの甚野博則氏。元『週刊文春』記者であり、現在は週刊誌や月刊誌を中心に社会ニュースやルポルタージュを執筆するなか、ひとつのテーマとして追っているのが、社会問題のひとつとして浮き彫りになっている介護現場の裏側だ。
日々のニュースでも、介護施設における高齢入所者への虐待や、金銭の窃盗、横領といった事件を見かけることは少なくない。その現場を取材し、施設に潜入もした甚野氏は、施設関係者や入所者家族らそれぞれの思惑が交錯することで生じるズレや、そこに息づく善人の顔をした魔物、はびこる悪意のない黙認、放置される欠陥のある制度といった問題点を指摘する。それを物語としてコミック『介護とハイエナ』(新潮社)で赤裸々に映し出し、現状の介護のあり方への疑問を社会に投げかけている。
甚野氏が本書に込めた思いと、介護現場の驚くべき実態を聞いた。
介護施設の虐待は事件の上澄みしか報じられない
ーー高齢入所者への虐待など、介護施設における事件をニュースで見かけることは少なくありません。同時に、甚野さんの執筆記事から、事業者が介護制度の抜け穴を利用して公金を懐に入れる実態も知りました。介護者個人と事業者の2つの側面から問題が生じているのでしょうか。
そうですね。介護制度にはいろいろと穴があって、一部の介護施設経営者はそれを利用して実際にさまざまな不正を働いています。国はその都度、穴をひとつずつ塞ぐための対策をしていますが、追いついていないのが現状です。
一方、多くの介護施設の従業員は、過酷な労働環境のなか低賃金で激務に追われる現実があります。そこで起きた事件の上澄みだけが報じられていますが、もっと根深いところに深刻な欠陥がある。その一部がセンセーショナルな事件として取り上げられることで、少しずつ表面化していると感じます。
ーー実際に介護施設へ潜入した記事もありますが、これまでの介護にまつわる取材のなかでもっとも印象に残っていることを教えてください。
たくさんあります。たとえば、国へ不正請求をしている関西のある介護施設では、何人もの従業員から証言を得て、エビデンスを入手したうえで社長に取材をかけました。
当人はその場では一切認めず、否定しました。しかし、その後に、もし不正が行政にバレて業務停止になったとしても、法人名を変えて事業を継続する抜け道がある、と周囲に話していたんです。悪意のある経営者が、巧みに制度の穴を利用して公金を搾取することができるシステムになっている現実を、目の当たりにしてきました。


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