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「ルポライター」という"蔑称"を名乗り続ける鎌田慧の矜持――見つめてきたのは「ちいさな一人」

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半世紀以上、働く人たちの現場から社会を捉えてきた鎌田慧さん(撮影:筆者)
  • 大月 えり奈 ルポライター・カメラマン・社会福祉士
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半世紀を超えて鎌田さんが目を凝らしてきたのは、“ちいさな一人”の存在だ。

「どこにでも、大きな力に抵抗している人っているんです。一人になっても。信じられないけれど、本当にいるんですよ」

鎌田さんは敬意を込めて、こうした“無名の市民”を、実名で取り上げてきた。そのうちの一人が、大間原子力発電所(青森)の建設予定地内で、唯一、用地買収を拒み続けた熊谷あさ子さんだ。事業者や自治体から圧力をかけられても、「海や畑を売ったら終わり」だと、信条を守り抜いた。鎌田さんはその生き方を丹念に取材し、亡くなった後も、娘と孫の3世代にわたって話を聞いた。

また裁判官から弁護士に転身した矢野伊吉さんも、力を込めてインタビューしてきた人だ。高松地裁丸亀支部の裁判長だった彼は、ある時、書棚に何年も放置されていた手紙を見つける。死刑判決が確定していた谷口繁義さんからのもので、有罪の根拠とされた証拠品の再鑑定を求める内容だった。

矢野さんは資料を調べるうちに、無実だと確信する。だが冤罪を証明することは、関わってきた裁判官たちの落ち度を暴くことを意味した。立身出世や安定した生活を前に苦悩するが、再審開始決定を出すことを決意。しかし、壁に阻まれ、再審は叶わなかった。裁判所への疑念を深め、定年を待たずに退官。谷口さんの専属の弁護人となり、人生をかけて、再審無罪判決への道筋をつけた。

『冤罪を追う』の中で、矢野さんの言葉を取り上げている。

〈不正義に気付いてしまったなら、気付いた人間がやはり何かをしなければならない〉

「そういう人たちを見てきたから、やっぱり妥協したらいけないなと思いますね」

「ルポライター」を名乗り続ける

インタビューの最中、逆に鎌田さんから尋ねられた質問がある。

「大月さん、なんであなたはルポライターを名乗っているの? もう、とっくに絶滅した職業ですよ。みんな逃げ出したのに」

どういうことなのか。

「ぼくがこの業界に入った頃はまだノンフィクションという呼び方がなくて、出版社から、書き手はみんな『ルポライター』にされた。フランス語と英語が混ざっている造語で、いやだなあと思いながら使っていた」

ところが、アメリカからニュージャーナリズムの作品が入るようになると、それまでルポライターと称していた人たちが一斉に『ノンフィクションライター』に肩書を上書きしていったという。

「ルポライターからノンフィクションライターに出世して、ノンフィクションライターからノンフィクション作家に出世して、ノンフィクション作家から作家に出世していった。みんなが」

そうすると、ルポライターというのは一番下にあるのか・・・・・・。

「底辺ですよ。“蔑称”だよ」

ただ、鎌田さんほどの重鎮であれば、いくらでも別の肩書を選べたはずだ。著作は100冊以上に及び、鎌田さんが書くものに憧れてメディア業界に入った人は数知れない。それなのになぜ“蔑称”を使い続けるのか。

「最初にそう付けられたからには、そこから逃げるわけにはいかなかった。だって、ノンフィクションライターやノンフィクション作家に変えると、なんだか這い上がっていく感じじゃないですか。それが嫌なんです。だからぼくは死ぬまでルポライターでいたい」

1938年青森県生まれ。県立弘前高校を卒業後に上京。カメラ工場の見習い工や謄写版技術学校の印刷工などを経て、早稲田大学第一文学部露文科に入学。卒業後、鉄鋼新聞社の記者や月刊誌「新評」の編集者として働いた後、68年、30歳の時にフリーに。1970年に『隠された公害:ドキュメント イタイイタイ病を追って』を刊行。冤罪、原発、公害、労働、教育など、戦後日本の社会問題を幅広く取材。それらの市民運動に深く関わってきた(撮影:筆者)

階層を上がっていく感覚への抵抗――。底辺や蔑称だと言いながらも、その響きとは裏腹に、どこか楽しそうな口調で語る鎌田さん。人との向き合い方が、ここに凝縮されているように思えた。

鎌田さんは取材に行く際、前もって徹底的に調べ上げたりはしないそうだ。

「学者や研究者じゃないからね。まずはその地に行ってみて、どうしようかと考える。行き当たりばったり」

身体を使って現地に赴き、感覚を頼りに歩いてみる。偶然の出会いが、未知の世界へとつながっていく。

怒りや葛藤、痛みを伴う感情。前例のない出来事、気付かれていない闇、そして人との信頼関係。たくさんのことが、見て、聞いて、感じて、ゼロから積み上げられる。

AIは手軽に、かつスピーディに“正解”を出してくれる。その案内に従っていけば、自分自身の判断すら“外部化”しうる。歴史上、誰も経験したことがない時代に突入し、私たちは足元の揺らぎを感じながら、人間としての立ち位置を問い続けている。

鎌田さんは語る。

「AIが完璧になることって、ありえないでしょう。人間は一人ひとりが違うんですから。地域の歴史や将来も違う。だからこそ、これからもいろいろな人たちの記録を残していく必要がある。人間がどう生きているかということこそが、文化の中心にあるのだから。だれかの生き方に倣おうとか、そこから教訓を得ようとする時には、やはり『人間たちの姿』が重要になってくる」

膨大な作品群は、社会の深淵を見つめ、懸命に生きる人たちの輝きを刻みこんだ、人間賛歌でもある。自分の意思を貫き通した “ちいさな一人”たち。鎌田さんが出会い、描いてきたその姿は、先行きの見えない時代を進む私たちにとって、大きな道標になる。

『鎌田慧セレクション−現代の記録−』(全12巻、画像:皓星社)

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