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「10年前飲んだ酒が忘れられない」と東京から客が…かつて「日本一」に輝いた酒蔵が今「労力が倍」な昔の酒造りに賭けたワケ

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藤井酒造
藤井酒造の事務所となっている建物は、大正期のものだという(写真:筆者撮影)
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とはいえ、義大さんは生酛造りを、価格を上げるための手段と捉えているわけではない。生酛造りの目的は「付加価値の創造」と「味わい」だ。実際、藤井酒造は生酛造りに変えても酒の価格を上げていない。製法を変えるのは蔵元の勝手な都合であり、その分のコストを消費者に押し付けるのは違うと考えているからだ。

目指すのは、消費者に欲しいと思ってもらえる酒を造ること。そのために、蔵の個性を出すこと。需要が高まり供給が不足するようになるまでは、価格を大きく変えるつもりはないという。

瓶詰めなどの出荷作業を行う、蔵の1階(写真:筆者撮影)

杜氏が譲れなかった一線

「生酛造りに変えようと決めた当時、社長は父、僕は専務の立場でしたが、父は特に何も言いませんでした。売り上げが上がるのならいい、と考えていたのではないでしょうか。蔵人たちには、家業を継いだときから僕の想いを伝え続けていました。だから『全量生酛にする』と言っても『やりたいんならやれば』という反応でした」(義大さん)

全量生酛に一番反対したのは、義大さんの叔父でもある、杜氏の藤井雅夫さんだった。

今まで通り速醸を続ければ、短時間で安定した品質の酒を造れる。しかし、生酛造りにすれば仕込み時間は倍になるうえ、品質が安定する保証もない。現場の責任を取る杜氏の立場からすれば、管理が大変な生酛造りにすべてを賭けることなど、許せるはずもなかった。

ましてや、それを推し進めようとしているのが、おむつの頃からかわいがっている甥であれば、なおさらだ。しかし、コロナの脅威は小さな酒蔵を押しつぶす寸前のところまで来ていた。在庫は一向に減らない。

「このままではつぶれる」

義大さんは強く主張し、半ば無理矢理、杜氏に将来は全量生酛とする方針を受け入れさせた。

2021年、義大さんはまず「龍勢 Limited Series」をすべて生酛造りに変える。藤井酒造の生酛造りの割合は、およそ半分になった。

だが、生酛に切り替えるだけでは、この蔵でしか造れない酒にはならない。ここから先の、新たな一手が必要だった。

藤井酒造の事務所となっている建物は、大正期のものだ(写真:筆者撮影)
《続きを読む→→》後編:「GTO」作者が支えた酒蔵、二度の豪雨浸水で1万5500本を捨てても「消えなかった」理由…6代目は蔵から238の酵母をかき集めた

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