塩野:中国のロボティクス企業はすさまじい発展を遂げている。創立わずか3年で1500億円もの資金を集め、テニスをするロボットを量産化したガルボット社などの進化は目覚ましいものがある。彼らは人間にテニスをさせてモーションキャプチャーを行い、強化学習と補正によって短期間で実用化している。
しかし、その中国のロボティクス企業であっても、唯一どうしても自前で作れず苦戦しているキーパーツがある。それが「手(ハンド)」だ。
指の動きを繊細にしようとしてモーター数を増やすと、腕や肩の構造が肥大化して重量バランスが崩れてしまう。この人間の手の代わりとなる繊細なメカトロニクス技術の領域において、日本は今なお圧倒的な優位性を保持している。
日本の問題は、得意なハードウェアの強みに甘んじ、ソフトウェアに対する自信を失っているところにある。自動車産業でも、制御系エンジニアの多くが従来の「ルールベース(あらかじめ定めた規則に従うプログラム)」に固執し、「ニューラルネットワークベース(強化学習で赤ん坊のように試行錯誤させて精度を上げるプログラム)」への移行で後れを取ってしまった。 3年でグローバルなロボットメーカーをつくれる時代に、リスクを取ってソフトウェアとハードウェアを融合させる勇気ある経営者が求められている。
中国は国家主導による過剰生産を続けている
新浪:中国の急速な技術的な発展について述べてきたが、一方で中国自身も極めて深刻な構造矛盾と「不条理」を抱えている。
現在、中国では学卒者の3分の2が「ギグワーカー(単発請負労働者)」化しているといわれる。国内の不動産バブルが崩壊し、デフレが深刻化する中で、若者の雇用が奪われ「寝そべり族」と呼ばれる社会不安が広がっている。
それにもかかわらず、国家主導で過剰生産を継続し、EV(電気自動車)やロボット、工業製品を国外へ大量にデフレ輸出している。例えばタイでは、BYDをはじめとする中国EVメーカーが押し寄せたことで、日本企業が長年築き上げてきた自動車産業のサプライチェーンや雇用構造が崩壊し、単なるアセンブリー(組み立て)拠点と化して地元の雇用が減少したり賃金が低下したりするという弊害が出ている。
このような、国内の不満を外に押し出すデフレ輸出構造が、RCEP(地域的な包括的経済連携)協定などの自由貿易枠組みの中で10年持ちこたえられるはずがない。私たちは中国の技術力を警戒しつつも、この構造的脆弱性と「不条理」を見抜き、自由貿易の旗手としてASEAN(東南アジア諸国連合)とともにその解決を進めていかなければならない。
ーーアメリカに目を向けると、トランプ大統領の支持率は内政上の不満などから下落しています。民主党側も超リベラル派への偏重が見られ、不安定な状況が続きそうです。
新浪:アメリカの政局がどう転ぼうとも、日本企業にとって不可欠なのは「アライアンス(同盟国連携)の再構築」だ。大統領個人の内向的な姿勢に左右されず、日米同盟を軸とした実務的な枠組みを固めていかねばならない。
日本の外交・安全保障上の弱点は、米議会に対する直接的なアプローチやロビー活動が著しく弱いこと。私自身、米議会の議員たちと頻繁に会談するが、共和党や民主党の主要人物であっても、日本の歴史的背景や真の立場を驚くほど知らない。
ホワイトハウスだけでなく、米議会に対しても日本企業のリーダーが直接出向き、日本の戦略的価値や歴史的妥当性を直接論理的に説明していく民間外交努力が不可欠だ。
塩野:米中覇権争いが激化する中、ヨーロッパやカナダ、日本などの「ミドルパワー(中堅国家)」が連携して米中の暴走を牽制すべきだという「ミドルパワー連帯論」も議論されている。


※ログイン後、コメント入力が可能です。