「なんかやんないと食っていけねえからさ。 どうしようかと思ってたら、ここがたまたま空いてたんだよ。鶯谷には行きつけの天ぷら屋があったりして、年中飲んだり食ったりしてたから、よく知ってたんだ」
79年、退職から1年も経たずして、元ホストクラブだった物件を居抜きで借りて開いたのがスナック「よーかんちゃん」だった。羊かんさんは、このとき40歳。
総決算としての「ウォータービジネス」
妻の早苗さんはこう振り返る。
「この人は中学も卒業しないで弟子入りして、根っからの芸人でしょう。 ほかの仕事はやったこともないの。だから、自分の今までの総決算の店をやりたい、協力してくれるかっ聞かれて、いいじゃないのって。私はずっと健康保険組合に勤めていて、レセプトとか経理をやっていたから、水商売のことはなにも知らなかったけど」
ここで、よーかんちゃんが鋭く突っ込む。
「ちょっと、水商売って言わないで」
すると、早苗さんが素早く切り返す。
「ウォータービジネス!」
「ウォータービジネス!? なんかかっこいいですね」と僕が言うと、「うちでは離婚のことも、バツイチと言わないんだ、うちではね」とよーかんちゃん。そこでふたりがパッと両手をクロスさせ、真顔で「クロスワン」。
この息の合ったコントのようなやり取りが、ずっと続くわけではない。基本的には羊かんさんがダジャレと下ネタ満載のトークでお客さんをもてなし、早苗さんはお酒や料理を運びながら、周囲に気を配る。会話に加わる時もにこやか、穏やかで「ママ」という表現がぴったりだ。ところがある瞬間、スイッチが入ったように、ふたりの掛け合いが始まる。その間が絶妙で、笑わずにいられない。


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