よーかんちゃんにはカラオケが備え付けられているが、マイクを握るのは羊かんさんのみ。数えきれないというオリジナルの持ち歌を、キレのいい振り付けとダンスで歌い上げる。歌詞はどれも思わず笑ってしまう内容だ。
取材の日も、3曲ほど披露してくれた。ステージのときには、羊かんさんが「大好き」という光り物をふんだんに身につける。照明を落とした店内に、電飾つき帽子、メガネ、ブレスレットがキラキラと眩しい。
軽快なリズムに合わせて腰を振り、ステップを踏む。「……これで87歳!?」と驚いていたら、「温泉の歌」に合わせて傍らから「ゆ、ゆ、ゆ!」と合いの手が入った。妻の早苗さんだ。意外なほどに真剣な表情で夫のステージを見つめながら、腹から出したような大きく、太い声でタイミングよくコールする。
羊かんさんは、妻の掛け声を受けながら、怪しげに歌い、踊る。場を盛り上げようとか、笑いを取ろうという雰囲気とは違う。開店から47年間、ほとんど毎晩繰り返されてきたショーは、早苗さんの存在も含めて一分の隙もない熟練の技として完成されているのだ。
羊かんさんの本名は、佐藤昭三。1939年の12月25日、宮城県の仙台で生まれた……ことになっているが、出生の秘密があるという。母親が、5人の子どもを抱えるシングルファーザーだった米屋の後妻に入ったこともあり、羊かんさんの認知に時間がかかり、役所に出生届を出したのがクリスマスだった。
「本当は1月25日生まれなの。でも後妻の子だからって、認知が延び延びになってね。それで世界がお祝いしてくれる日ってことで、12月25日が誕生日になったんだ。おふくろには、『昭ちゃん、頑張りなさいよ。人より先に生まれてんだから』って言われたよ」
小学校3年生から磨いた接客スキル
羊かんさんが3歳の時に父親が亡くなると、暮らしが急に苦しくなった。年の離れた5人の異母兄弟は、学費を払えなくなって働きに出た。続いて、羊かんさんも小学校3年生から地元の豆腐店で仕事を得た。この時から、接客のセンスを磨いていたようだ。
1丁15円の豆腐を売ると、5円の駄賃を貰えた。目を付けたのは、国立病院。勝手に病棟に入り込んで医師や看護師、患者に声をかけると、毎回100丁ほど売れた。しかも、「坊や、えらいね」と小遣いをくれる人もいる。


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