石破前総理の独特のしゃべり方が持つニュアンスを、どうトランプ大統領に伝えるか。外務省は、安倍晋三元総理とトランプ大統領の会談を担当していた経験豊富な通訳者を、すでに昇進して現場から離れていたにもかかわらず、わざわざ呼び戻しました。石破前総理自身が「この人でお願いします」と指名したほどです。
その会談の中で、石破前総理が「まだ公式発表していないが、アメリカへの投資についてこういうことを考えている」と切り出したとき、通訳者はそれを英語で「Here is some good news(グッドニュースがあります)」と訳したそうです。
日本語の「まだ発表していないんですが」という前置きのニュアンスを、トランプ大統領が喜びそうな言い回しに瞬時に変換した。これは並外れた判断力と場の読み方です。
「知っている」と「使える」は違う
単に言葉を置き換えるだけなら、AIにもできます。しかし、本当に高度な通訳は、言葉の裏にある意図まで読み取り、相手に最も効果的な形で伝えるのです。
外交の場では、わずかな言い回しの違いが、相手に与える印象を大きく左右します。直訳すれば失礼になる表現もありますし、逆に、少し柔らかく言い換えることで交渉がスムーズに進むこともある。そこでは単なる語学力ではなく、政治的な感覚、相手の性格への理解、その場の空気を読む力まで求められます。
「月がきれいですね」という日本語を字義通りに英語にすれば「The moon is beautiful tonight」です。しかし夏目漱石がこれを「I love you」の訳として弟子に使うよう勧めた、という逸話があります。
実話かどうかは定かではありませんが、日本語の美学として、愛の告白をこんな遠回りで表現する。このニュアンスの訳し方を、AIはどこまで理解できるでしょうか。
試しにChatGPTに「月がきれいですね」の意味を聞いてみると、「月が美しいという本来の意味に加え、日本語では愛の告白として使われるという解釈があります」という回答が返ってきました。
漱石の逸話はネット上にたくさん書かれていますから、AIも「知っている」わけです。しかし実際の会話の場でそれを「使える」かどうかは、また別の話です。



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