パークとロイターローレンツは、この働きが老化に限った現象ではなく、睡眠不足や複雑なタスクに直面したときなど、あらゆる「脳への挑戦」に対して起動する、生涯を通じて機能する適応的なプロセスと説明しました。
パークとロイターローレンツによれば、知的な活動への積極的な関与や運動が、この補償的なメカニズムをより効果的に機能させる方向に働くとのことです。つまり、脳を使い続けることが、「足場を張る力」の維持につながるのです。
この知見を学習に応用すると、チェックリストや手順テンプレートといった「外部の足場」を上手に使うと良いことが見えてきます。新しいスキルを身につける最初のうちは、手順を外部に書き出しておくことで、脳内の作業記憶にかかる負荷を減らすことができます。余裕が生まれた分の認知リソースを「理解すること」や「判断すること」に集中できるようになります。
外部の足場は、能力の不足を隠すためのものではありません。複雑な作業を小さな手順に分け、脳が新しい回路を育てるまで支えるための道具です。最初からすべてを覚えようとせず、補助を使いながら少しずつ自力へ移行しましょう。そして、その作業が少しずつ身についてきたら、チェックリストの項目をひとつずつ減らしていきましょう。
手順書は育てるものです。基本の動作が体に入ってきたら、その部分は思いきって削り、代わりに「ここで判断が要る」と気づいたポイントを書き足していきましょう。外部の足場を段階的に外すことで、脳が「自分の力でできる回路」をじっくりと育てていくことをサポートしてくれます。
認知症を予防する「脳の貯金」
多くの方が老後に備えて貯金をするように、脳にも同じように「貯金」できるしくみがあります。それが「認知的予備力(コグニティブ・リザーブ)」と呼ばれる概念です。
認知的予備力とは、加齢によって脳の組織が少しずつ傷んでも、あるいはなんらかのダメージを受けても、認知機能をできる限り保ち続けるための「余力」のようなものです。同じ程度の脳の変化があっても、記憶力や思考力の低下の出方に人によって大きな差があり、その差を生み出している要因のひとつが、この認知的予備力だと考えられています。
コロンビア大学のスカルメアスらは、この概念を理論として整理し、認知的予備力を「受動的」と「能動的」の2つに区別しました。受動的な予備力とは、脳の物理的な大きさや神経細胞の数など、もともとの脳の容量に関わるものです。一方、能動的な予備力は、人生を通じた経験や知的活動によって形成されるもので、こちらはあとから積み上げることができます。


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