しかし、もう一方の「衰えにくい力」は研究者が「結晶性知能」と呼ぶもので、まったく違う軌跡を描きます。経験や学習を通じて積み重ねてきた知識や言語能力がこれにあたり、語彙、歴史の知識、専門的なノウハウなどが含まれます。
ソルトハウスのデータでは、この力は60歳ごろまで上昇し続け、その後も緩やかにしか低下しないことが示されました。知識の力は加齢とともに落ちるどころか、むしろ積み上がっていくのです。
クロスワードパズルを例にした比較が、この研究結果を鮮やかに物語っています。
論理推論のテストでは、年齢が上がるほど成績が下がる一本調子の低下曲線が見られます。しかし一方で、知識がものをいうクロスワードパズルでは、頻繁に取り組んでいる人たちのあいだで逆の傾向、つまり年齢が上がるほど成績が上がるという逆転現象が確認されました。同じ人のなかで、2つの力が正反対の方向に動いていたのです。
年をとって変わるのは「使う武器」だけ
年齢を重ねると、「速く処理する力」は少しずつ鈍るかもしれませんが、「知識として積み上げた力」は年齢を重ねるほど厚みを増します。スポーツカーのエンジンが少し非力になっても、長年の経験で充填された「ガソリンの質と量」がそれを補ってくれるということです。
実際の日常生活で感じる「頭の衰え」がそれほど深刻でないのも、この補完関係によって説明できます。多くの場面で私たちは最大限の処理速度を必要としておらず、むしろ蓄積してきた知識やパターン認識でじゅうぶんに対応できているからです。
実生活においては、知識の結晶化を習慣にして「衰えにくい力」を意識的に育てることが肝要になります。新しく学んだことを、過去の経験や既存の知識と結びつけるほど、結晶性知能は厚みを増します。若いころのような速さだけを追うのではなく、「すでに知っていることをどう活かすか」という視点を持つことが、年齢を強みに変える学び方です。
新しいことを学んだとき、ただ処理して終わりにするのではなく、「これはどういうことだったか」「次にどこで使えるか」を自分の言葉で整理し、記憶の棚に丁寧にしまう。このひと手間が、年齢に関係なく着実に積み上がる「知の資産」になっていくのです。


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