7月31日、映画『開戦前夜』が公開された。太平洋戦争直前の「総力戦研究所」を題材にした作品で、日本がアメリカとの戦争に走った“当時の空気”が生々しく感じられる、すばらしい作品だった。
シネコンの比較的小さなスクリーンではあったが満席。大ヒットとはいかないだろうが、ロングランが期待できるだろう。映画評価サイトでも軒並み高評価を得ている。
そんな良作に対して、訴訟が起こされている。公開前には、抗議活動を受けてプレミア上映会が中止された。良作なのに、いったい何が問題となっているのだろうか。
史実とかけ離れた所長の人物像
この映画、もともとはNHKスペシャル「シミュレーション〜昭和16年夏の敗戦〜」と題して、昨年8月にドキュメンタリー部分とセットで放送されたテレビドラマだった。演出が映画監督の石井裕也氏と聞き、私は期待を高めて放送時に見た。
終始、緊迫感が張り詰める見応えあるドラマだった。だが、違和感を持った点があった。
ドキュメンタリー部分でドラマとの違いが解説された。ドラマでは総力戦研究所の所長は板倉という名で登場したのだが、実際の所長は飯村穣といい、自由闊達な議論を奨励する人物で日米戦への突入を憂えていたという。
一方、ドラマの板倉所長は、研究により日本の必敗が見えてくると圧力をかけてくる、嫌な人物だった。日米戦突入を促す結論を暗に求める、非常に陰湿な男として描かれたのだ。本来の人物像がわかっているなら、なぜドラマでそう描かないのかと困惑した。

