飯村氏の著書のこのくだりを読んで、私はなるほどと思った。暗部ちゃんは数年前にNHKを退職して「反NHK活動」を熱心に続けている。私も会ったことがあり、時折やり取りもしている。彼が飯村氏の味方につくのは当然だと納得した。
NHKは当初こそ交渉する姿勢を見せたが、抗議活動が本格化すると、飯村氏に会わなくなった。内部事情が見えない飯村氏に、情報提供したのが暗部ちゃんとNHKの名だたるOBたちだった。
彼らの話を聞いて、ようやくなぜこうなったかが飯村氏にも見えてきた。私も飯村氏に協力したOBの1人から話を聞くことができ、NHK局内の事情がわかってきた。
番組責任者の異動で事態はうやむやに
2024年春から番組担当者が石井監督と半年ほど交渉した後、同年秋にNスペの責任者にも話が行った。Nスペは報道・教養番組であり、内容の丁寧な検証が必要になる。とくに戦争を扱う番組は過去に数多くあり、その経験も含めて入念に検証される。NHKの番組の中でも基準が厳しい。
半年間の交渉とは別の、より高い要望が石井監督に出てくる。とくに東條英機など実名で登場する人物については厳しいチェックが入ったようだ。
石井監督はびっしり入った赤字による修正にも丁寧に応じたという。だが、物語の要の部分となる総力戦研究所の中の人物像、リーダーの宇治田洋一と所長の板倉大道については譲らなかった。
石井監督が主演の池松壮亮とともに企画を立ち上げたのは20年以前だったと聞く。映画としてはいったん頓挫し、ようやくNスペを経て映画が作れることになり、番組担当者と半年交渉もした。その後でNスペ責任者にあれこれ要望を出され、納得のいく部分は応じても、自分の創作の幹となる部分は譲れなかったのではないか。
Nスペ責任者側は25年の年明けの撮影後、8月の放送までにさらに交渉するつもりだったかもしれないが、運悪く異動になってしまう。こうして板倉所長の人物像は修正されることなく、放送に向かっていった。そこに番組告知を見た飯村氏から抗議があり、ドラマ部分とは違う補足説明が入った。

