NHKスペシャルは、同局が総力を結集して制作・放送する大型ドキュメンタリー番組だ。ドラマを絡めるときも事実に根ざした物語にするからこその迫真性がある。
だが「昭和16年夏の敗戦」は、ドラマとドキュメンタリーの一貫性のなさがNスペらしくなく、奇異に感じた。ドラマの面白さと共に、違和感は私の記憶に残った。
その後、昨年12月にこの作品が訴えられた。原告は、飯村穣のお孫さん、飯村豊氏だと聞いて驚いた。Nスペのドキュメンタリー部分に出演し、祖父について語った人物だからだ。自分が協力した番組に対して訴訟を起こすとはどういうことなのか。
6月に出版された飯村豊氏の著書『総力戦研究所の真実 歴史の法廷に立つNHK』を読んで、その背景がよくわかった。
「昭和16年夏の敗戦」に潜む“過ちの種”
私は、『開戦前夜』がNスペで放送したドラマ部分の映画化だと認識していたのだが、事実は違った。もともとは石井監督が進めていた映画企画が先にあった。それが頓挫した後、NHKに提案したところ、採用され、Nスペの戦後80年特番の1つとして制作されることが、映画化込みで決定したのだ。
映画企画だったものをNスペとして放送し、さらに映画にもする。フィクションたる映画と、事実にのっとるべきNスペ。混ぜてはいけないものを混ぜてしまったことに、過ちの種があった。
飯村氏は放送1カ月前に番組の告知を読んで、自分の祖父が実際とは違う描き方をされると知り、NHKと交渉を始めた。ドラマを変えてほしいと訴えても、すでに撮影は済んでいる。ようやく認められたのが、ドキュメンタリー部分での補足だった。私が違和感を持ったのは、そのパートを無理やり入れ込んだからで、窮余の策だったのだ。
放送後も納得ができない飯村氏は抗議活動を始める。さっそく開いた会見で出会ったのが、元NHK職員で「暗部ちゃん」という名で活動するコラムニストだった。

