実は野生動物の影響は、農作物の被害にとどまらない。イノシシやシカは山からマダニを運び、人の生活圏に広げる恐れもある。近年、ウイルスを持つマダニも問題になっているため、注意が必要だ。
「そうならないように、しっかり声を上げて、上まで届けないと」
新規就農した”小田原の宝”
このように敏雄さんが諦めない理由のひとつに、地域への思いがある。
「小田原の柑橘が認められることで、地域に貢献できたらいいなと思って」と敏雄さん。
品質へのこだわりも、値上げへの決断も、獣害への声も。その先にあるのは、自分の畑だけの話ではない。根底にあるのは地元への誇りだ。
敏雄さんの妥協しない姿勢に共感して、InstagramのDMで「そちらで勉強させてください」と連絡をしてきた人物もいる。デザイナーの内山恵太さんだ。
内山さんは北海道出身。大学進学を機に神奈川へ移り、弟と暮らしていた。農業に興味があったため、果物のWebメディアを立ち上げ、各地の農家を取材していたという。取材を通して出会ったのが、敏雄さんだった。常に上を目指し、果物への向き合い方や、おいしさを追求する姿に触れ、「しっかり学びたい。こういうところで教わりたい」と思ったことが、きっかけだった。
八木下農園の直売所には、ジュースやシロップ、ジャムといった加工品が並ぶ。ラベルは内山さんがデザインしたものだ。
「もともと、全部同じラベルだったんです。せっかくこれだけ違う品種があるのに、それが伝わらないのは、もったいないなと思って」と内山さん。
「誰かに渡したくなるようなものにしたい」と思いを込めたラベルにより、加工品の売上は3割ほどアップしたそうだ。
「うちのデザイナー」と敏雄さんは微笑む。
2026年春、内山さんは2年間の研修を終了。今は、弟と2人で柑橘農家を営んでいる。畑は、八木下農園が加工を依頼している工房「やまげん」がかつて使っていた場所を、有償で譲り受けた。

