“水分が抜けた”果実が、一皿のデザートに生まれ変わった
ひらまつ仙石原が最初に使った八木下農園の商品は、ベルガモットのシロップだった。国産のベルガモットは珍しく、味わいも申し分ない。取引開始からわずか1年で、八木下農園のシロップはウェルカムドリンクの定番になった。
時期によって柑橘の種類は変わり、筆者が訪れた際は、湘南ゴールドを使ったウェルカムドリンクでもてなしてくれた。味わいを気に入り、ボトルごと購入するゲストもいるという。
やがて、生の果実も朝食を彩るようになり、コース料理のデザートの素材になっていった。
「甘いだけじゃないんですよね。柑橘らしい香りがあって、酸味や甘さも、それぞれが尖りすぎない。旨味っていうのかな」
落合シェフがメニューを考案する際、畑での体験が創作のヒントになっているという。柑橘にはカルシウムの肥料を与えていると聞き、「それなら、乳製品と合わせるのはどうだろう」とアイデアが湧く。太陽が降り注ぐ農園を思いながらつくり上げたのは「柑橘のカンノーリ」だ。
カンノーリはシチリアの郷土菓子。筒状の生地にフロマージュブランのムースとレモンクリームを詰め込んだ。八木下農園の4種の柑橘を贅沢に添えている。
あの大雪の日は、湘南ゴールドの入荷を控えていた頃だったという。直前に使っていたブラッドオレンジがとてもおいしく、厨房では期待が高まっていたそうだ。
落合シェフは、敏雄さんから「出荷できないかもしれない」と連絡を受けると、まず被害を受けた果実を受け取り、確認した。確かに、水分が抜け、果肉の隙間に空洞ができていた。
ただ、絞ってみると、果汁はみずみずしかった。香りや酸味も十分で、味もいい。「それなら果汁を使おう」と考えた。
そうして、完成したのが「湘南ゴールドのトルタ」。

