当時の生活は、仕事8時間、睡眠4時間、ゲーム12時間。今思えば完全にゲーム中心の生活だったというが、仕事では「社員にならないか」と声を掛けられるほど評価され、ゲームでもランキング上位に入る実力があった。リアルにも、オンライン上にも居場所はあったのだ。
一方で、心のどこかでは「このままではいけない」という焦りも消えなかったという。
しかし、このアルバイト経験は決して無駄ではなかった。
「医師になった今、さまざまな患者さんと接しています。あの頃、いろいろな年代の人と一緒に働いたり、さまざまなお客さんと接したりした経験は本当に役立っています」
ゲームが教えてくれた「終わりがある」という現実
そんな阿部さんの人生を大きく変えたのも、皮肉なことにゲームだった。夢中になっていたオンラインゲーム『ボンバーマンオンライン』のサービス終了である。
大会で優勝するほど打ち込んできたゲームだった。しかし、サービスが終了すると、それまで積み重ねてきたランキングも実績も、一瞬で消えてしまった。
「そのとき初めて思ったんです。ゲームの中でどれだけ頑張っても、その世界が終われば全部なくなるんだな、と」
その出来事は、阿部さんの価値観を大きく揺さぶった。
「だったら、自分自身の中に残るものを身につけたい。自分の力で生きていける仕事を持ちたいと思いました」
もともと子どもが好きだったこともあり、教育に関わる仕事も考えた。とにかくやり直したいと思った阿部さんは親のもとへ向かい、これまでのことを謝罪した。
「もう一度、受験勉強をさせてください」
深々と頭を下げる息子に、親は静かに答えた。
「分かった。頑張りなさい」
それは、ゲームから離れる決意だけではない。自分の人生を、自分の意思で立て直そうと決めた瞬間だった。
そのとき、20歳になっていた。しばらく勉強から離れていたものの、「もう一度受験勉強をやる」と決めると、不思議なことが起きた。
それまで生活の中心だったゲームが、急につまらなく感じるようになったという。
年明けから春にかけて、「もう一度受験に挑戦するべきか」と悩み抜いた末、4月から予備校へ通い始めた。
ゲームで培った戦略の立て方や相手のパターン分析、集中力は、そのまま受験勉強へ向かった。

