平日の午前10時。品物が並んでいる店もあれば、まだシャッターが降りている店もある。開店時間は店によりけりのようだ。市場を歩く女性に声をかけると、病院の帰り道だという。自転車を引くおじちゃんにも聞いてみると、近くで30年、飲食店を営み、毎日ここで仕入れているという。荷台の段ボール箱には、仕入れたものがぎっしり詰まっていた。
北九州民に教えてもらった、あの味
最初に向かったのは、ぬかみそだき「ふじた」。ぬかみそだき?となる人も多いのではないか。私自身もそうだった。ぬか炊き、とも呼ばれるぬかみそだきは、北九州市小倉の郷土料理だ。イワシやサバなどの青魚を醤油やみりん、砂糖などで煮込んだあと、熟成したぬか床を加えて炊き上げている。
筆者がぬかみそだきを知ったきっかけは、ある日、北九州出身のご近所さんがお土産に持ってきてくれたことから。その日、初めて食べたぬかみそだきは、よくある魚の煮付けでもないし、サバの味噌煮とも違っていた。
「うちの実家は子どもの頃から、ふじたさんのぬかみそだきって決まっとるけん」。北九州民にとってのぬかみそだきは家では作らずに、お決まりの店で買うものらしい。
取材の日、サバとイワシのぬかみそだきを買って、近くの飲食スペースで食べた。1尾450円だ。箸を入れると、サッと切れる。骨まで柔らかく煮込まれていてぜんぶ食べられる。こっくりとした甘辛さに、ピリッとした旨みも感じる。ぬかみそだきでしか味わえない味がある。市場の片隅で、白飯が恋しくなった。
店主の藤田崇秀さんに話を聞いていると、常連のお客さんがやってきた。筑豊地区の田川から車で1時間かけて、ふじたのぬかみそだきを買いに来たという。わざわざ? と聞く私に、「ここの味があるけん」と笑顔で即答してくれた。
ふじたのぬかみそだきは、40年以上、味も素材も変えていないのだという。原材料が上がっても、質を落とさない。だから値段は上げざるをえない。「常連さんは、食べたら分かるから」と藤田さんはにっこり笑う。
「崩すのは簡単やけど、守るのが一番大変ですよ」
ぬかみそだき作りは、毎朝、門司の本社工場で、創業者である父・浩三さんが、魚をさばくところから始まる。ぬか床は代々伝わるもので、鷹の爪や山椒を加えながら、大事に育てているという。さばく工程を除いて、およそ7時間かけて炊き上げることで、骨まで丸ごと食べられるあのぬかみそだきが出来上がる。

