結果として、社内でマネジメントを担える「適齢期社員」が不足し、管理職不在の要因となっている。そして既存の管理職がいくつもの役割を兼任させられたり、この男性のような下の世代が、管理職の穴埋めとして過度な負担を背負わされたりする事態が発生しているのだ。
今後、少子高齢化はますます加速し、労働力人口は減少していく。加えて「管理職になりたくない」という若手も増えていることから、管理職ポストの空席問題はさらに深刻化するだろう。人員を補充したくともできない状況に会社側も頭を悩ませるが、ポストの穴埋めをさせられる側も、過剰労働のリスクを背負う。
冒頭で紹介したD氏は、非常にまじめで営業成績もトップクラスだった。
責任感が強く、頼まれると断れない。また「自分がやったほうが早い」と、他人の仕事まで背負い込むこともあった。さらに評価を落としたくない、周りを失望させたくないという思いが強く、役割や責任の範囲を確認せずに引き受けてしまう。
彼のように、頼めば何でも責任を持ってやってくれるタイプは、会社側からするとありがたい存在だ。ゆえに、ついつい頼り、結果として本人は割を食うことになる。
「ジョブ・クリープ」現象
このような状態は、正式な役職変更や評価や報酬の見直しを伴わないまま、業務範囲がじわじわと拡大する「ジョブ・クリープ」と呼ばれる現象そのものだ。会社側は、断らずに引き受けてくれる社員を頼り、本人もどこまでが自分の仕事で、どこからが本来の役割ではないのかわからず、あいまいなまま働き続けている。
まじめで責任感が強い人は、このような状態に陥っても声を上げたり助けを求めたりすることができない。そして、D氏のように体調を壊して初めて気づく。体調を壊さないまでも、「会社は自分を守ってくれない」「頑張っても報われない」といった思いが強くなり、退職に至る。
D氏の場合、「このままではいけない」と思いつつ、「上司の期待に応えたい」という気持ちも捨てられずにいた。そこで、カウンセリングで業務の整理を行うことにした。
抱えている業務をすべて書き出し、「メンバーに頼めること」「やらなくていいこと」を仕分けした。あとは手放して周囲を頼るだけ……しかし、「頼られている自分」を手放すことへの抵抗感と、メンバーを頼ることへの罪悪感で、まだ迷っていた。

