今回のアシカから見つかったフィラリアは少数で、目立った病変も認められませんでした。フィラリアが体にまったく影響を与えていなかったとは言い切れませんが、直接の死因ではなく、やはりアシカは進行した肝臓がんによって亡くなったと考えられます。
ただし、アシカの心臓からフィラリアが見つかったことは、やはり問題です。
イヌを飼っている方はご存じのように、フィラリア症は予防薬を定期的に投与すれば、ほぼ100%防ぐことができます。そのため、獣医師がいる動物園や水族館では、アシカやアザラシにもフィラリアの予防薬を投与することが一般的です。
つまり、この動物園では、アシカにもフィラリア予防が必要だという知識が十分に共有されていなかったか、予防薬を定期的に投与する体制が整えられていなかった可能性があります。フィラリアの存在は、この動物園が抱える、獣医療上の脆弱性を象徴する所見だといえるでしょう。
動物園で働く獣医師の役割
動物園で働く獣医師の役割は、病気になった動物を治療するだけではありません。
定期的な健康診断によって異変を早期に発見する。予防接種などによって病気の発生を防ぐ。動物が病気になったり死亡したりしたときには、その原因を調べ、対策を立てたり、感染症だった場合にはほかの飼育動物や人間への感染拡大を防いだりする。
獣医師は、飼育動物たちと施設で働く人々や来園者の、健康と安全を守る存在です。
そのような重大な役割を担う獣医師を欠いたまま、動物園や水族館が運営されているとすれば、それは好ましいことではありません。
動物園といっても規模はさまざまですから、すべての施設に常駐の獣医師を雇うだけの経営的余裕はないのが、今の日本の現実です。特に、小規模な家族経営の動物園などは経営が厳しく、「獣医師まではとても雇えない」というところも少なくないでしょう。
そのような施設の中には、獣医師免許を持つ人材を飼育員として採用し、飼育員としての待遇のまま、動物の病気の予防や治療から、施設の衛生管理までを担わせているところもあるようです。

