「それでもかまわないから、動物たちを救うために働きたい」という熱意を持つ獣医師もいますが、それはやはり「やりがい搾取」となってしまう場合があり 、健全な働き方とも、健全な施設運営ともいえないでしょう。
もちろん、すべての動物飼育施設が、今すぐに獣医師を常勤で雇うことは非現実的です。しかし、獣医師が飼育動物だけでなく、そこで働く人々や来園者の健康と安全も守る存在である以上、常勤でなくても、せめて、獣医師と顧問契約を結んだり、地域の動物病院や獣医学部のある大学と連携したりする体制は、最低限必要だと思います。
そうした体制を整えることが、結局、安価ではない展示動物により長く生きてもらうことにつながり、何より、彼らの苦痛を減らせます。
常駐が無理でもつながりを
今回のアシカのケースも、動物園に獣医師がいて定期的に健康診断ができる状況であったなら、肝臓の異常を早く発見できていたかもしれません。 常駐でなくとも相談できる獣医師がいれば、肝臓がんの早期発見は難しかったとしても、フィラリアはほぼ確実に予防でき、少なくともフィラリアによる体への負担は与えずに済んだはずです。
一頭の動物の死からは、その動物の体で起こっていたことだけではなく、その動物が飼育されていた施設の獣医療体制の弱点まで見えてきます。今回の依頼者さんには、「いつでも相談できる獣医師とつながっておくことを、園に持ち帰って検討しておいてください」とアドバイスしました。
死から得られた教訓が今後の飼育に生かされてこそ、病理解剖を行う意味はあるのです。

