ここまで読んで、「うちにも、似た若手がいる」と感じた経営者は、少なくないはずです。Aさんの一件は、特殊な不運ではありません。残業を減らし、ハラスメントをなくし、人間関係にも配慮する。そうして“ホワイト企業”を目指してきた職場ほど、気づかないうちに別の罠にはまり込んでいるのです。
その罠には、すでに名前があります。
「ゆるブラック企業」、あるいは「パープル企業」です。
残業もない。ハラスメントもない。人間関係も悪くない。けれど、成長できない。収入が上がる未来も見えない。ブラック企業ではない。しかし、真にホワイト企業とも言い切れない。第三のカテゴリーです。
この問題が広く知られるきっかけになったのが、2022年12月に日本経済新聞が報じた「職場がホワイトすぎて辞めたい 若手、成長できず失望」という記事でした。Yahoo!ニュースのトップを飾り、大きな反響を呼びます。「ホワイト企業をつくれば若手は定着する」という前提が、現実とずれ始めている。多くの人が、それを直感していた証しだといえるでしょう。
冒頭で触れた「働きたくない理由」の1位が「成長できない」だったことを、ここでもう一度思い出してください。これは、若手のわがままではありません。転職市場の動きが、それを裏づけています。エン・ジャパンが社会人約5700人に尋ねた2023年の「ブラック企業・ゆるブラック企業」調査では、「ゆるブラックだから」という理由での転職に「同意できる・どちらかと言えば同意できる」と答えた人が全体で76%にのぼり、その割合は、若い世代ほど高くなっていました。
つまり、いまの若手は「楽だから残る」のではありません。「楽なだけなら、むしろ辞める」。働きやすさは、もはや定着の決め手ではなくなっているのです。
経営者が「良かれ」と思ってやっている、4つの優しさ
では、優しい職場は、どのようにして若手のキャリアを止めてしまうのか。経営者が「良かれ」と思って続けている振る舞いを、4つに分けて考えてみます。どれも、それ単体では思いやりに見えるものばかりです。

