しかし一般論として、このような情報操作は世界的にはすでに広く行われている。2016年の米国大統領選では、ロシアによる影響工作が人種問題や移民問題を巡る国民の対立を煽ったことが指摘された。イギリスのEU離脱をめぐる国民投票でも、同様の外国介入が確認されている。
その手法として、たとえば、先ほどのボットの使用がある。これによって、あたかもその主張が大多数に支持されているかのような錯覚が生まれる。これは心理学で「ソーシャルプルーフ効果」と呼ばれるもので、他人の行動を判断材料にしてしまう人間の特性を巧みに突いている。結果として、実際の世論とは異なる見え方がSNS上で形成され、世論誘導が可能になるのである。
言語の壁が弱まり、情報介入の懸念が高まっている
外国からの情報介入を制度的にどう扱うかは、いま世界中で急速に重要性を増している課題である。それは単純に海外の意見が混ざるという話ではない。民主主義の基盤である「自国の住民が、自国の政治や社会のことを自ら判断する」プロセスへの外部からの働きかけが、巧妙かつ高度な方法で行われるようになっているからだ。
特に選挙や政策をめぐる世論形成のプロセスは、国内の多様な価値観や議論を前提としている。そこに、特定の国や組織が意図的に情報を送り込み、意図した方向に空気を誘導するような操作が加われば、自発的な意思決定の土台が揺らぎかねない。
こうした懸念は、日本でも以前に比べてより現実味を帯びてきている。というのも、生成AIの発達によって、外国語で書かれた情報を自然な日本語に翻訳したり、日本語で発信されたコンテンツを他言語に変換したりすることが容易になっているからだ。
かつては言語の壁(日本語の特殊性)が、ある程度のブレーキとして機能していたが、このブレーキは技術の進歩によって弱まっている。結果として、海外で生成された主張や物語が、違和感なく日本の情報環境に入り込み、受け手がそれを自国の内発的な議論と区別しづらくなる可能性が高まっている。
この問題への対策として、各国はさまざまなアプローチを取っている。EUは、巨大なプラットフォームに対して透明性やリスク評価・緩和策の実施を義務づける制度設計を進めている。具体的には、プラットフォーム側が情報操作の可能性を体系的に評価し、どのような主体がどのような形で関与しているかを説明責任として果たすことが求められている。これは、表現を規制するのではなく、社会全体として「誰が何をしているのか」を見える化する方向を目指したものである。
米国では、外国の政府や組織が関与したと判断されるケースに対して、既存の選挙法や安全保障法との連携を強め、捜査や制裁を通じて介入を封じる取り組みが続いている。これは、違法性が明らかな場合の対応を重視しつつ、組織的な関与の疑いがある動きを抑えるというもので、法整備・執行(捜査)・制裁を合わせたプロセスで運用されている。

