今回の攻勢の背景には、9月末に迫る楽天モバイルとの関係変化がある。楽天が自社エリアを補うために使ってきたauローミングは、26年9月30日に提供期限を迎える。KDDIの松田浩路社長は5月の決算説明会で、このローミングについて「当初の役割は終えた」と述べ、楽天ユーザーの副回線としてpovoを提供するアイデアにも自ら言及していた。6月にはローミング提供エリアが都市部を中心に縮小し、楽天回線がつながりにくくなったとの声がSNSで増えている。
記者からは、6月という閑散期にあえて施策を打つ意図や、楽天ローミング終了との関係を問う質問が相次いだ。濱田氏は楽天への直接の言及を避けつつ、「年間を通すと6月は静かでイベントの少ない時期だ。7月、8月と夏に向けて利用が増えるトレンドをつかむ意味がある」と答えた。そのうえで「他社の通信回線が使いにくいという声が顕著に出ているのは事実。それに対して何かを打って出ようと考えた」と、品質を武器にした攻めの動機を認めた。
他社を狙う矛先は、自社のauにも向く
povoがメイン回線を取りにいくことは、KDDIのマルチブランド戦略の中で微妙な位置を占める。KDDIはau、UQ mobile、povoの3ブランドを抱える。povoが伸びれば、同じグループのauやUQ mobileと顧客を食い合うのではないか。povoでメインを取った後、結局auへ誘導するのではないか。囲み取材では、この点を突く質問が続いた。
濱田氏は3ブランドの棲み分けを強調した。auのメインブランドは、ポイントプログラムや金融サービスとセットで使うフルスペックの価値を提供する。一方のpovoは、基本料0円と幅広いトッピングによる柔軟性が持ち味だ。「au経済圏をもっと楽しみたい客にはauをどうぞと言えるし、他社のポイントプログラムや決済を使いたい客には、その柔軟性を持って我々のサービスを使ってもらえる」と述べた。
濱田氏は、グループ全体で顧客を囲い込むのが理想だとしつつ、「必ずしもそうじゃないお客さんもいる。それを強要するものではない」とも述べた。auの経済圏に乗らない利用者を、povoの柔軟性でつなぎとめる構えだ。
ただ、povoが品質を掲げてメイン回線を取りにいくほど、同じKDDIのauと競合する場面は増える。今回の攻勢は、その重複を承知で他社への流出阻止を優先したものといえる。
9月末には、楽天が頼ってきたauローミングが切れる。他社の電波が細るその前に、povoはau品質を売りに新規ユーザーを呼び込みにかかった。料金でも容量でもなく、つながりやすさで勝負を仕掛けている。

