さらにすごかったのは、その仕組みです。クレジットカードが個人の与信をベースにしているのに対して、彼らのQRコード決済は、銀行口座と直接つながっていました。つまり、クレジットカードが発行できないような人でも、銀行口座さえ持っていれば、誰もがキャッシュレス決済の恩恵を受けられる、というわけです。
言ってみれば「しょぼい技術」と「しょぼい技術」の組み合わせ。でも、それが導入のハードルを大きく下げ、爆発的に普及したのです。
はたして、中国の滞在中、私が財布から現金を取り出すことは一度もありませんでした。
欧米や日本ほどクレジットカード決済が普及していなかったがゆえに、「しょぼい技術」と「しょぼい技術」の掛け算が、一足飛びの進化を遂げていたのです。その光景に、頭をガツンと殴られたような衝撃を受けました。
日本が陥っていた「高機能・高コスト」の罠
「むちゃくちゃすごかったな。おばあちゃんの屋台までQRコード決済とは……」
中国で目の当たりにした「しょぼい技術」と、滞在中に財布を一度も取り出さなかったユーザー体験。その衝撃は、日本に戻ってきてからも脳裏にこびりついていました。
高度な技術にこだわり、いつの間にか「高機能・高コスト」という、日本のお家芸ともいえるイノベーションのジレンマに陥っていた日本のキャッシュレス決済市場。2017年当時の日本のキャッシュレス決済比率は21.3%(経済産業省調べ)と、国際的に見ても低調な水準でした。
すでに市場にはLINEが展開する「LINE Pay」や、EC大手の楽天グループの「楽天ペイ」といった、QRコードまたはバーコード決済のプレーヤーたちが一定のポジションを築いていました。でも、当時のヤフーでは「本命のいない、まったく勝負がついていない市場」と見ていました。
その停滞するキャッシュレス決済市場に、低機能・低コストの「超ローエンド」のQRコード決済で風穴を開けたい——そんな思いから2018年、新たなQRコード決済サービスが産声を上げました。ヤフーとソフトバンクのジョイントベンチャー(JV)によって誕生した「PayPay」です。
広大なフロンティアが広がる、未開拓のキャッシュレス市場。とはいえ、かなり遅れて殴り込みをかけるのですから、生半可な戦い方では勝ち目はありません。

